IABPの離脱(ウィーニング)をしたことはありますか?
飛行機の離着陸のように,IABPの導入離脱は(管理以上に)慎重に行うべきとされます.
ただ,実際のところ,IABPのウィーニングはまったく難しくないですよ.
最初は不安や抵抗があると思いますが,重要なポイントを見逃さなければ,トラブルなく完遂できます.
今回は,循環器専門で,集中治療好きな私が,IABPのウィーニングに関してわかりやすく解説します.
IABPのウィーニングにビビる必要なし【ポイントを簡単に解説】
- 離脱したことで状況が悪化する
- 離脱後にIABPの再導入が必要になる
といった状況です.
それらを防ぐためには
➁ ウィーニング開始
➂ 準備をして抜去
という手順を踏めばokです.
離脱可否かのチェック【最重要】
実際のウィーニングに取り掛かる前に,失敗しないための事前チェックです.
正直,ここさえしっかりしていればほとんど問題となることはありません.
循環指標の基準
以下に,IABP離脱の目安とされている循環指標を示します.
・収縮期圧 > 90 mmHg ないし 平均動脈圧 > 60 mmHg
・PCWP < 20 mmHg
・CI(心係数) > 2.0 L/分/m2
・尿量 > 30 ml/hr
しかし,これらの値は必ずしも絶対的ではありません.
例えば,慢性心不全の急性増悪など,元々の余力がない場合は,離脱基準を低く設定することも考慮します.
また, IABPには冠血流増加作用があるので,虚血性心疾患の場合,循環指標が落ち着いていても,急性期の心筋スタニングの改善時期まで離脱はせずにゆっくり様子を見ることもあります.
値に固執することなく,柔軟に考えましょう.
離脱可否のチェック➀
血圧,PCWP,CI,尿量などの循環指標が許容できる
臨床経過
最も大事なことは,原病のコントロールがついていること.
ウィーニングに失敗する場合は,たいていここが問題です.
例えば,連日レントゲンやスワンガンツのデータが悪くなってきている症例は,循環指標が目安を満たしていても,抜去は慎重にすべきです.
他にも,不整脈のコントロールがついていない場合,落ち着いているときに循環指標の目安を満たしていても,不整脈が再発したら破綻してしまうかもしれません.
広い視野で,病態が改善に向かっているか否かを確認すべきです.
離脱可否のチェック➁
原病のコントロールがついている
器械をいじってみよう
実際にIABPの器械もいじってみましょう.
圧波形を見てみる
IABP留置中の圧波形を見たことありますか?
IABPでサポートすると,バルーン拡張圧がベースの拡張期血圧に”乗っかります”.
結果として上に示したように圧波形が変化します.
この上図のように,拡張期のバルーン拡張圧が優位になっている状態は,自己の血圧が相対的に低い状態なので,IABPへの依存度が高いことになります.
心機能が回復してくると,自己の血圧が上昇してくるので,拡張期のバルーン拡張圧は自己圧に”埋もれてきます”.
最低でも上図の真ん中くらいの状態(自己圧とバルーン圧が同じくらい)でないと,IABP停止後に血圧が低下することは明白です.
上図の一番下のような圧波形(自己圧がバルーン圧より優位)なら,IABPを停止しても血圧はほぼ下がらないでしょう(むしろ,IABPはほぼ意味をなしていない可能性すらあります.)
離脱可否のチェック➂
IABP圧(拡張期のバルーン圧)に頼りきっていない
スタンバイにしてみる
IABPへの依存度が高い場合,IABPをスタンバイにして10数秒もすれば血圧が下がったり肺動脈圧が上がったりします.
上述した圧波形の評価では,血圧の依存度(Diastolic augmentationの効果)はわかりますが,IABPの効果にはSystolic unloadingもあります.
すなわち,IABPの効果は,圧波形の形からだけでは判断しきれるものではありません.
≫IABPの原理に関してはこの記事に書いています.
IABPをスタンバイ(一時停止)にしただけで,みるみる血圧やスワンガンツデータが悪くなる場合は,抜去に慎重になるべきでしょう.
せいぜい30秒以内で再作動させましょう.
離脱可否のチェック➃
IABPをちょっとスタンバイにしてみても,循環動態が劇的に悪くはならない
離脱可否チェックのまとめ
離脱可否のチェック
➀ 血圧,PCWP,CI,尿量などの循環指標が許容できる
➁ 原病のコントロールがついている
➂ IABP圧(拡張期のバルーン圧)に頼りきっていない
➃ IABPをちょっとスタンバイにしてみても,循環動態が劇的に悪くならない
また,この状況は,カテコラミンは使用していない,もしくは使用していても少量という状態で達成した方がいいです.
こうすることで,抜去後に少し循環動態が悪くなっても薬剤で立て直しが効くので,離脱の失敗はグッと減りますよ.
ウィーニング開始
前述したチェックポイントが問題なさそうなら,実際にウィーニングしてみましょう.
ちなみに,全然難しくないです.
アシスト比を減らそう
アシスト比とは,心臓の収縮に対して,IABPが駆動する回数の比率です.
導入,および維持の基本は1:1です.
一般的なウィーニングの方法は1:1 →1:2 →1:3 →抜去のようにしますが,1:3は不要との意見もあります.
ここに関してはコンセンサスが得られていないので,施設毎の流儀を確認してください.
1:2を試す時間は4-5時間が一般的とされていますが,アシスト比を下げてみる時間に決まった推奨はありません.
特に,1:3は血栓リスクが高いので,あまり長時間行わない方がいいでしょう.
また,1:2以下のアシスト比に下げる際は抗凝固療法が必須と考えてください.
≫IABP管理時の抗凝固に関してはこの記事で解説しています.
ウィーニング時のチェックポイント
ウィーニング時のチェックポイントは,血圧,HR, PCWP,CIなどの循環指標です.
これらの循環指標が,ウィーニングによってあからさまに悪化した場合は,原病治療を見直して仕切り直しましょう.
ウィーニングのポイント
・アシスト比を1:1 →1:2と減らす.
・時間は4-5時間が目安(決まった推奨はないので柔軟に).
・1:2以下の設定にする時は抗凝固を必ず行う.
・ウィーニング中,循環指標の悪化があれば仕切り直し.
特殊なケース
そういったケースでは,ウィーニングは不要です.
なぜなら,元々の導入目的が,循環補助や左室のunloadingではなく,冠血流の増加だからです.
ボリュームウィーニング
しかし,「血栓ができやすくなるからボリュームウィーニングなんてありえない.」「血栓リスクが高まるから反対.アシスト比のtaperingで十分.」等の意見もあり,私も反対,というか不要な考えだと思っています.
やらなくていいです.
準備をして抜去
ウィーニングで問題なければいよいよ抜去です.
手順は以下の通り.
➀ACTを200以下にしておく
必要に応じてプロタミンを投与してリバースしましょう.
➁駆動を停止→シリンジで陰圧をかける
バルーンをできるだけしぼませるのが目的です.
(たいていの施設ではMEさんがやってくれますかね.)
➂抵抗がないことを確認しながらシースごと抜去
IABPの中には,シースを残せるタイプもありますが,ひっかかったり,血栓をトラップしてしまうこともあるので,基本はシースごと抜去が良いです.
➃1-2心拍出血させる
万が一血栓ができていた場合,下肢末梢に飛ばないようにあえて少し出血させます.1-2心拍くらいなら大した出血にはなりません.
➄用手圧迫→圧定
私は,最低でも15分圧迫し,6時間後圧定解除としています.
まとめ
どうでしたか?
読むのは疲れたと思いますが,ポイントだけ抑えれば大丈夫です.
再度ポイントを確認すると
離脱可否のチェック
➀ 血圧,PCWP,CI,尿量などの循環指標が許容できる
➁ 原病のコントロールがついている
➂ IABP圧(拡張期のバルーン圧)に頼りきっていない
➃ IABPをちょっとスタンバイにしてみても,循環動態が劇的に悪くならない
原病のコントロールがついていることが最も重要です.
この状況を,カテコラミンは使用していない,もしくは使用していても少量という状態で達成します.
ウィーニングのポイント
・アシスト比を1:1 →1:2と減らす.
・時間は4-5時間が目安(決まった推奨はないので柔軟に).
・1:2以下の設定にする時は抗凝固を必ず行う.
・ウィーニング中,循環指標の悪化があれば仕切り直し.
アシスト比を下げる時間や,1:3以下の設定を試すか否かは,症例や施設の流儀に合わせてください.
≫ウィーニングに関して,抗凝固管理からの視点から考えた記事はこちら.
抜去のポイント
・ACTを200以下にしておく.
・基本はシースごと抜去する.
・1-2心拍出血させる.
ポイントというわけではありませんが,シースサイズは8Fr程度だと思うので,止血はしっかり気合を入れてやりましょう.
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