PCPSの適応ってわかりづらくないですか?
≫PCPSとV-A ECMOは同義です.そこがあやふやな方は,まずこの記事を読んでください.
PCPSは,補助循環の1つであり,心停止などの切迫した状況で使用されます.
究極の選択肢であるPCPSの導入は容易ではないですし,適応外の人に導入してしまうことも気まずいでしょう.
にもかかわらず
PCPSの適応を調べてみても,色々なことが書かれていてイマイチまとまりがありません.
"どんな症例のときに準備をしなければならないのか"
"とんな症例には導入するべきでないのか"
救急の現場にいると不安になりませんか?
今回はそんな疑問を,循環器専門で救急治療・集中治療に携わってきた私が解決します.
PCPSの適応は簡単【実は2つだけ】
以下は,ELSO(Extracorporeal Life Support Organization)のガイドラインが示すPCPSの適応疾患です.
・劇症型心筋炎 ☜PCPSを入れる時は心停止か心原性ショック
・慢性重症心不全急性増悪 ☜PCPSを入れる時は心停止か心原性ショック
・難治性不整脈 ☜VT/VF stormだから心停止
・開心術後心不全 ☜術後の心原性ショック
・薬物中毒による心不全 ☜PCPSを入れる時は心停止か心原性ショック
ほら,言った通り2つだけでしょう?
「そういうことじゃなくて,心停止/心原性ショックの中でも,どの疾患が対象になるかを知っとかないと!!」
と思った方.その疑問が適応があやふやになる原因の1つです.
ここで提示したELSOの適応疾患も適応の一例にすぎず,例えば,肺塞栓症や偶発性低体温のような"PCPSの良い適応"とされる疾患を含みません.
要は"そこ"じゃないんです.
ガイドラインを参考にするのはいいですが,無理に疾患を丸覚えするのはやめましょう.
- PCPSの適応は心停止と心原性ショックの2つ
- 細かい適応疾患の暗記は不要
一律の導入基準はない
PCPSの適応がわかりづらい原因の2つ目は,導入基準に一律のものがないということです.
これはいくつかの成書や,ネット上でも散見されるPCPSの適応基準です.
カテコラミン,IABP使用下で以下の基準を満たす重症心不全
・収縮期圧<80mmHg
・PCWP(ウェッジ圧)>20mmHg
・CI(心係数)<2.0/分/m2
・CVP(中心静脈圧)>22mmHg
これを見た時「え??」ってなります.
例えば,CVPが20だったらPCPSは適応にならないのでしょうか?CVPが22を越えるまで補液しなきゃダメですか?
例えば,明らかな循環不全を起こしている劇症型心筋炎でも,収縮期血圧が80を切っていなかったらまだPCPSを導入してはダメですか?
まことしやかに"適応基準"とされている一例でもこのレベルです.
実際にはこれらの所見は参考程度に過ぎず,一律の導入基準なんてものは存在しません.
なぜでしょうか?
一律にできない理由➀:領域によるから
PCPSはそもそも治療ではなく,根本治療のための時間稼ぎです.
ゆえに,原疾患の状態が重要であり,各領域で導入基準は異なってきます.
ROSCしなそうな心停止は除外され,回復見込みのないショックも適応外になります.
では
ROSCしそうな心停止の基準ってありますか?
回復見込みのありそうなショックの基準はありますか?
ないですよね?
ゆえに,可逆性のある心停止/心原性ショックが"曖昧にも"いい適応疾患とされます.
例えば,急性心筋梗塞,心筋炎,肺塞栓,難治性不整脈などであり,よくPCPSの適応疾患にリストアップされています.
≫PCPSの禁忌や合併症に関してはこの記事にまとめてあります.
一律にできない理由➁:エビデンスが蓄積しないから
特性上,PCPSの導入タイミングには,ランダム化できる余裕はありません.
よって症例集積研究がほとんどあり,無作為化試験が乏しいために質の高い研究は行えていないのが現状です.
また,数少ないPCPSのエビデンスも,その多くが日本や東アジアのものであり,欧米では施設により適応の差が激しく,最終的には現場の判断にゆだねられています.
これでは国際的に一律の導入基準ができようがないです.
- PCPSに一律の導入基準はない(今後もできなそう)
- 可逆性のある心停止/心原性ショックが"曖昧に"いい適応とされる
じゃあ,実際どうすればいいか【実用性のある適応の考え方】
一律の導入基準がないとはいっても,実際の現場では困ってしまうので,ある程度の基準があります.
まずは,2つの適応,心停止と心原性ショックをしっかり分けて考えましょう.
心停止
国際蘇生連絡委員会ILCORの作成した国際コンセンサス(CoSTR)では
-迅速にPCPSを使用できる状況において,心停止の原因が治療可能であると疑われる一部の患者に対してPCPSを考慮してよい
(classⅡB, LOE C)
とあります.
さらに,院内心停止と院外心停止を明確に異なる病態とし,PCPSの適応を差別化しています.
院内心停止
観察研究レベルですが,院内心停止に対するPCPSの有効性は示さています.
否定的な報告もありますが,背景の差異などが見られ,こういった報告だけでPCPSの可能性を無下にすべきではないと思います.
急変時DNARであったり,心停止理由が明らかに活動性出血,大動脈解離,多臓器不全,悪性疾患などの禁忌疾患でなければ,基本的に院内心停止にPCPSは検討すべきです.
- 院内心停止はPCPSのいい適応
- DNARや明確な禁忌の存在が明らかでないのであれば,たとえ原因不明でも院内心停止にはPCPSを検討すべき
院外心停止
2014年に本邦から発表された多施設前向き研究SAVE-J試験は,院外心停止に対するPCPSの有用性を示した研究として世界的にも有名です.
本研究での登録基準は
・病院到着時も心停止継続
・心停止から病院到着までが45分以内
・病院到着後15分のCPRでROSCしない
試験結果は,1か月後,6か月後の神経学的予後が改善したというものでした.
このSAVE-Jの導入基準を目安にを定める施設も多いです.
つまり
shockable rhythm(VF/pulseless VT)で,心停止から病院到着までが45分以内ならPCPSの準備をすべきでしょう.
そもそも,なぜnon-shockable rhythm(PEA/Asystole)は適応になりにくいのか.
それは,心停止に至るまでにショックや低酸素が先行し,脳虚血などの臓器障害が進行しているケースが多く,また,心停止の原因同定にも時間がかかることがあり,予後不良だからです
逆に言えば,non-shockable rhythmでも,可逆性があればPCPSを検討していいでしょう.
などの疾患が心停止の原因であると考えられる場合,non-shockable rhythmの院外心停止でも状況によってPCPSを検討していいと思います.
特に,バイスタンダーCPRがなされていた場合や若年症例では,医療者側を希望を捨てるべきでないと個人的には思います.
- 心停止後45分以内に到着できたshockable rhythmはPCPSのいい適応
- non-shockable rhythmの院外心停止はPCPSの適応とはなりにくいが,可逆性が望める病態・状況の時は慎重に検討してもよい
心停止へのPCPSの適応【まとめ】
表にまとめるとこんな感じ.
院内心停止とShockable rhythmは,PCPS適応の閾値を下げるといえます.
心原性ショック
心原性ショックに対するPCPSの適応≒補助循環の適応
です.
すなわち
最大限の薬物治療でも血行動態の改善を認めない時です.
但し,補助循環の第一選択はIABPになります.
PCPSに比して低侵襲だからです.
IABPの補助循環で不十分な際にPCPSは登場します(補助循環のescalation).
≫IABPとPCPSの違いに関してはこの記事にまとめてあります.
上述した通り,明確なデータなどの基準は不要です.
可逆性が望める心原性ショックでIABPで補助流量が足らないならPCPS導入です.
※最近ではimpellaという選択肢もあります.詳しく知りたい人は"impella"でググってください.
ガイドラインでの言及
ESCのSTEMIおよびNSTE-ACSガイドラインでは,PCPSは短期間に限り,重症の心原性ショック合併例に適応としても良い(classⅡB, LOE C)
となっています.
ESCの心不全ガイドラインは,救命のためのPCPSはやむを得ないが,心臓移植やVADの適応を判断するまでの時間稼ぎとして,短時間の使用に限定せよ,となっています.
- IABPで補助流量が足りない時のescalationとしてPCPSを検討
- ACSで,重症心原性ショックを合併していた場合に短時間の使用を検討しても良い
- 重症心不全では,あくまで心臓移植やVADの適応を判断するまでの時間稼ぎとして使用とする
まとめ
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