IABPやPCPSのような補助循環は,便利である一方,管理を間違えれば命に関わることもあります.
そこで,適応や管理方法について成書を読んでおきたいとは思いませんか?
今回は,循環器内科の私が,実際に補助循環を学ぶために読んだ本の中から2つを選りすぐりました.
それぞれ長所短所があり,どんな人が読むのにオススメかを解説していきます.
IABPやPCPSなどの補助循環を学べるおすすめの本2選+1
「補助循環の本」ということで探すと,メカニカルな仕組みの説明中心の本も多く,特徴や適応,管理についてまとめた書籍はあまり多くありません.
そんな数少ない書籍の中から,「買ってみたら期待外れの内容だった...」とならないように,出版の古い本は除外し,少なくともIABPとPCPSに解説がしっかりされていることを選出の最低基準にしました.
おすすめ➀「なぜなに?がガツンとわかる補助循環」
総括
最大の売りは読みやすさ.
補助循環の勉強に敷居の高さを感じているのであれば,この本から読めばいいと思います.
但し,知識面はやや浅く,循環器専門医や臨床工学技士の方が“バイブル”とするには物足りないです.
辞書代わりには到底ならないし,他の医療者に解説するときの参考とするには頼りないです.
反面,もともと補助循環の知識がない人が読むことによる実用性は高く,セミナーベースの書籍ということもあってか,確実に身になるような内容になっています.
気になったのは,わかりやすさを重視して,「後負荷=血圧」など,かなりかみ砕いた表現があること.
いくらなんでもかみ砕きすぎかなーと思ってしまうので,心不全管理に関するコメントは,総じて専門性が特に低いと思って読んだ方がいいです.
ちなみにV-V ECMOの話は全くなく,VADの話もほぼありません.
知識量
ABP, PCPSに関する話がほとんど.知識は浅め.VADの話を少しだけ.V-V ECMOの話はなし.
実用性
適応や具体的な管理項目に関しては深堀されていて,読みやすさと合わせて実用性は高い.
読みやすさ
小項目ごとの内容や,手書き風のイラスト多く,とても読みやすい.
頭への入りやすさ
手書き風イラストは余計な情報が少なく頭に入りやすい.
信頼性
実用性を重視するあまり,やや著者独自のルールで話が展開されている.
専門性
補助循環初心者にもわかりやすい反面,専門性は低い.
特におすすめの人
・IABPとPCPSのことを初めて勉強する人.
・IABPやPCPSに関して,読みやすくて実用性のある本を探している人.
あまりおすすめできない人
・V-V ECMOやVADも含めて,補助循環全般を知識網羅的に勉強したい人.
・既にIABPやPCPSなどの補助循環の導入管理の経験があり,知識を拡充したいような人.
トレードオフとして,知識量と論理性をやや欠く部分はありますが,勉強し始めの1冊には最高だと思います.
医師だけでなく,循環器病棟配属の看護師さんなどにも強くおすすめします.
おすすめ➁「明日のアクションが変わる 補助循環の極意 教えます」
総括
特徴は補助循環の話だけではないという点.
「補助循環を真に理解のためには,それに関わる心不全の病態理解,循環作動薬の理解,スワンガンツカテーテルの理解などが必要」という観点で,色々な循環器領域の知識が盛り込まれており,説明のボリュームも多い.
この点は,読む人によっては苦痛かもしれないが,循環器を専門にする者にとっては,「この1冊を読めば,補助循環や,その周辺の循環器知識をおさらいできる」というものであり,読み甲斐のある1冊.
反面,「補助循環を勉強するぞ!」という意気込みで読むと,話が色々それるのでうっとうしいかもしれない.
また,本全体としての流れも,多すぎる知識量に阻害されて,分かりやすい説明に比して頭に残りにくい.
頭に定着させるには,自分でまとめなおしたり,実践と並行して読み直したりしないと難しいかもしれない.
知識量
IABP, PCPS,VADだけでなく,impellaの話もある.補助循環に関わる周辺知識の解説まであり,ボリューム満点.
実用性
補助循環の知識だけでなく,循環器集中治療の現場で生きる知識満載なので実用性は高い.
読みやすさ
図表の差し込みや会話形式の展開もあり読みやすいのだが,とにかく情報量が多く,Totalで普通.
頭への入りやすさ
解説はわかりやすいが,本全体の流れが良くない(例:突然心エコーの話になる,など)ので,体系的に知識がまとまりにくい.
信頼性
それぞれの補助循環のエビデンスを丁寧に説明してくれている.
専門性
看護師や研修医にはやや荷が重い内容かも.若手循環器内科医や循環器を志す医師にちょうどいいレベル.
特におすすめの人
・若手循環器内科医.読んで間違いなし(循環器内科の私が言い切ります).
・循環器を前向きに考えている研修医.
・補助循環に自信のない循環器内科医.
あまりおすすめできない人
・医師以外のコメディカルで,循環器専門というわけではない人.
・補助循環の原理・種類・特徴などを一通り勉強できればいい人.
循環器医ならすごくおススメ.
おまけ「最新にして上々! 補助循環マニュアル」
おまけとして,上の2冊ほどおススメではないのですが,IABPやPCPSについてまとめられた本の紹介.
あえて,おススメしなかった理由もあります.
総括
知識は網羅的で,IABPとPCPS,VADに関して一通り解説してくれます.
特に,他の補助循環の本に比して情報がしっかりしている個所は3つ.
➀適応・管理などの解説をエビデンスを踏まえてしっかりしてくれている.
➁VADに関する話
➂機器の原理から,点検・アラーム対応などのメカニックの知識
➀は有用で素晴らしいです.
➁の話も有用なのですが,結構細かいので,心移植を行っている施設でない場合は,実感が湧きにくい内容です.
➂は臨床工学技士でなければサラッと読みで十分な内容.ボリュームがある分,(医師の私は)本のポテンシャルを生かし切れていない気がしてしまいました.
特におすすめの人
・補助循環に携わる臨床工学技士.
あまりおすすめできない人
・IABPやPCPSを初めて勉強する医師や看護師.(臨床工学技士は除く)
・補助循環に関してサラッと読める書籍を探している人.
個人的には,これを買うなら「明日のアクションが変わる 補助循環の極意 教えます」の方がオススメです.
悪い本だと言っているわけではありません.
医師や看護師が読むには,本全体の情報量を生かしきれないかな,という意味です.(本もタダではないので...)
タダで読める環境(既に持っている,知り合いに借りられる,など)なら,読んでみることはオススメです.
まとめ
簡単にまとめるなら
- 初級者には「Dr.正井の なぜなに? がガツンとわかる補助循環 」
- 深めたい人は「明日のアクションが変わる 補助循環の極意 教えます」
です.
迷ったら,まずは「Dr.正井の なぜなに? がガツンとわかる補助循環 」を読んでみてください.
物足りなければ「明日のアクションが変わる 補助循環の極意 教えます」の方も読めばいいと思います.
説明の切り口が違うので,同じ説明を2度目に受けているような気だるさはなしで読めます.
循環器を専攻している,もしくは専攻していく予定なら最初から「明日のアクションが変わる 補助循環の極意 教えます」が絶対にお勧めです.
読むことで確実に臨床力がアップします.
明日,あなたの目前に補助循環症例が舞い降りてくるかもしれません.
そうなってからあたふたしたり,突然ググりだすのは嫌じゃないですか?
自分に合っていそうな本を読んで,補助循環への苦手意識を克服しましょう!
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