糖尿病治療薬解説 糖尿病

【循環器視点】SGLT2阻害薬がおすすめな症例とは【心不全と相性がよい?】

更新日:

※2020/9/12内容改訂

SGLT2阻害薬は,「糖を尿に排泄させる」という作用から,既存薬にない特殊な副作用の懸念を生み,投与に慎重な先生が多いかと思います.

しかし,一方で,心血管リスクの低減などのエビデンスがあり,2019年の米国糖尿病学会ガイドラインでは,心血管疾患を有する症例では,メトホルミンに次ぐ第2選択薬として推奨されています.

私は糖尿病専門医ではないですが,循環器を専門としているので心血管疾患の患者さんを診る機会が多くなります.
また,普段から利尿剤を使い慣れているので,最も懸念される脱水の副作用への抵抗が少なく,おそらく平均的な内科医より多い頻度でSGLT2阻害薬を処方しています.

そんな私の観点から,SGLT2阻害薬の使用上の注意点や,特におすすめな症例などを解説します.

 

まずどんな薬か:SGLT2阻害薬の作用機序

SGLT2阻害薬は,近位尿細管にあるSGLT2(sodium gulcourse co-transporter2)によるブドウ糖の再吸収をブロックすることで尿糖排泄を促進します.

故に,一定の利尿作用を有します.
尿細管に作用する各種利尿剤と,作用部位を比較してみましょう.
SGLT2阻害薬 利尿剤の作用部位

このように,各種利尿剤の作用部位より近位部で作用することがわかります.
そのため,使用開始初期(1-2週間)は利尿効果がありますが,その後はフィードバック機構としてより遠位での水やNaの再吸収が亢進することで,利尿作用が持続することはない,とされています.

 

循環器の私が語る理由:SGLT2阻害薬の特徴

SGLT2阻害薬は血糖依存性に効果を発揮することから,単独投与での低血糖の報告はほとんどありません

空腹時血糖,食後血糖ともに低下作用が認められており,いずれも他の血糖降下薬と併用も可能です.

私が作成した“経口血糖降下薬の立ち位置図”では,(肥満寄りの)真ん中に位置させています.
≫参考記事:糖尿病薬の種類まとめ【立ち位置を理解する】.

血糖降下薬の立ち位置 肥満 やせ Drぷーオリジナル

血糖降下薬としての特徴

単独投与で低血糖ほぼなし
空腹時血糖も食後血糖も下げる
他剤の併用制限なし(常に2剤目として検討できる)

注意点としては,脱水リスク高齢者への使用です(詳細は後述).

効果の特徴は以下の通り.

心血管イベントの低減効果

SGLT2阻害薬の代名詞とも言える特徴です.

話題となったEMPA-REG OUTCOME試験は,SGLT2阻害薬の一つであるエンパグリフロジン(ジャディアンス®)が,心血管イベントの発症リスクが高い2型糖尿病患者において,プラセボとの比較で,複合心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)リスクを14%心血管死のリスク限定ならば38%,それぞれ有意に減少させたというもの.

SGLT2阻害薬 イメージ

注意点は,

①標準治療への上乗せであり,SGLT2阻害薬単独の効果ではない可能性がある.(標準治療内訳:75%メトホルミン,40%SU薬,50%インスリン)
②心血管リスクの高い患者だけを集めており,低リスク患者の一次予防はこの限りではない
心不全は有意に減るが,虚血性心疾患は減らない

ということです.

とはいえ,糖尿病患者の心不全合併率は高く,5人に1人が心不全になると言われており,心血管リスクの高い症例の心不全を減らす,という効果に限定されても,十分活躍が期待できるレベルです.

実際に,急性・慢性心不全ガイドライン2017では,エンパグリフロジン(ジャディアンス®)とカナグリフロジン(カナグル®)の使用は,心不全合併糖尿病classⅡa心血管既往のある糖尿病患者の心不全予防ではclassⅠAです.

[drug effect(薬剤特有の効果)かどうか]
本邦で発売されているSGLT2阻害薬は6種類あるのに,なぜこの2剤だけかというと,エビデンスの有るかないかだけです.
他の薬剤の多くも,遅れて同様のtrialを組んでいて,結果も同様に出ているようなので,心血管リスク抑制効果はclass effect(全てのSGLT2阻害薬にある効果)な気がしますが,私自身は,一応ガイドラインに沿って,上記2剤を優先することが多いです.(具体的な使い分けは後述しています.)

 

腎症の進行抑制効果

上述したEMPA-REG OUTCOME(エンパグリフロジン)の他,CANVAS program(カナグリフロジン)DECLARE-TIMI 58(ダパグリフロジン)などの複数の大規模研究が,SGLT2阻害薬の腎保護効果を示唆してきました.

さらに,その後に行われたCREDENCE試験(カナグリフロジン)は,中等度に腎機能低下した顕性腎症(顕性アルブミン尿)を呈する糖尿病患者を対象にとし,腎保護効果を証明してくれました.

糖尿病性腎症の進行抑制効果を示す薬剤としてはRAS阻害薬(ARB, ACE阻害薬)が有名であり,実臨床でも広く用いられる薬剤となっていますが,それ以降の薬剤で腎症抑制効果を示したのは,SGLT2阻害薬が初めてです.
(一部のDPP4阻害薬やGLP-1アナログでも,アルブミン尿減少などの代理アウトカムで,有効性の報告がありますが,妥当性に関しては検討が必要.)

その機序としては,糖尿病性腎症で生じる糸球体過剰濾過(glomerular hyperfiltration)を改善しているのではないか,と推測されています.

[糖尿病性腎症で生じる糸球体過剰濾過]
高血糖⇒SGLT2過剰に発現⇒ブドウ糖と同時にNaClの再吸収増加
⇒遠位尿細管の緻密斑(macula densa)が,「NaClが減少した.GFRが低下している!」と勘違い⇒輸入細動脈が拡張⇒糸球球体内圧上昇

 

内臓脂肪減少効果

SGLT2阻害薬の内服で,1日約100gのブドウ糖が尿中に排泄され,約400kcalのカロリーロスとなります.
すると,糖質がエネルギー源として利用できなくなり,代替エネルギーとして内臓脂肪が消費されます.

このことによりメタボリックシンドローム改善効果や,インスリン抵抗性の改善が期待できます.

Drぷー
要は,やせ薬ですね.

他の糖尿病薬は,インスリン分泌の亢進などによって,むしろ体重増加する傾向が多いので,SGLT2阻害薬の体重減少効果はとてもユニークです.

血圧低下効果

機序は不明ですが,血圧が少し下がります

「糖排泄による尿浸透圧亢進が,浸透圧利尿を起こして血圧を下げるのでは?」という意見が主流ですが,上述した通り,「より遠位の尿細管でフィードバックを受けるので,利尿作用やNa排泄作用はない(持続しない)」と,されているのです.
この意見は,(効果を否定するメリットが少ない)販売者サイドが言っているので.実際のところ,血圧低下作用の機序は不明です.

体重減少によるインスリン抵抗性が関与しているとの見方もありますが,推測の範疇です.

 

 

SGLT2阻害薬の特徴のまとめ

空腹時高血糖・食後高血糖の双方に有効だが,単独投与で低血糖はほぼ起きない
心血管リスク,特に心不全を有意に予防する
腎症の進行を抑制する
内臓脂肪減少や,血圧低下など,おまけの効果もある

 

SGLT2阻害薬の注意点

とにかく敬遠される主な理由の一つは,利尿作用による脱水です.

口渇中枢の働きが弱まる高齢者への使用も慎重であるべきです.
(認知症などで)飲水がしっかりできない方は尚のことです.

脱水は,脳梗塞や腎障害のリスクとなることはもちろん,糖尿病患者さんであれば,シックデイの病態悪化にもつながるので軽視できません.

SGLT2阻害薬の有効性を示した多くの臨床試験は65歳未満といった年齢制限がかかっており,発売当初,65歳以上のSGLT2阻害薬使用全例に市販後調査提出義務が課されていたことはその裏付けです.

また,腎機能が悪い症例は,薬剤の効果が発揮されにくくなります
作用機序を考えれば当然といえば当然です.
特段,危険性があるわけではないので「CKDだから使わない」とは思いませんが,eGFR45未満の症例でのHbA1c低下効果は期待できないとされ,マージンをとってもeGFR30未満の症例に私はあまり使用しません.

痩せている方は,代替エネルギーとしての脂肪が少なく,代わりにタンパク質がエネルギーとして利用されることで,筋量が減少する可能性があるため,積極的には使わない方がいいでしょう.

尿糖による尿路感染症性器感染症の増加にも留意すべきです.
特に,性器感染症の増加が多く,圧倒的に女性に多い副作用です.

使用時の注意点

高齢者飲水がしっかりできない症例への使用は,脱水に注意
eGFR45未満の症例への有効性は期待できない
痩せている症例には積極的には使わない
特に女性は,尿路感染症性器感染症に注意

 

特におすすめな症例

ココがポイント


一番のおすすめは,肥満若年心不全

次いで推す条件は,男性顕性アルブミン尿


個人的には,1剤目として,安全性からDPP4阻害薬を使用することが多いのですが,DPP4阻害薬の弱点の一つとして,肥満症例で効きにくい,ということがあります.
≫肥満が弱点?DPP4阻害薬の特徴まとめ記事.
 
ガイドラインに従うならば,こうゆう時はメトホルミン,なのでしょうが,(カテーテル検査などで)造影剤の使用頻度が多いからか,私はどうにもメトホルミンには抵抗があります.
そこで,肥満症例での1剤目や,DPP4阻害薬のみで効果不十分な症例へのアドオンする薬剤として,SGLT2阻害薬を想起します.

その他,魅力的な効果として上述した,心不全予防効果も注目していますし,よりHOTな話題である顕性アルブミン尿症例も,いい適応と言えるでしょう.

そして,これらの使用を優先したくなる症例であっても,高齢者というだけで,リスクの観点から迷います.故に若年症例がbetter

また,高頻度な副作用の,性器感染症・尿路感染症は,明らかに女性で多いので,男性がbetterです.

Drぷー
高齢化が進み,心不全,腎不全の患者は益々増えてきます.
そんな世の中において,SGLT2阻害薬の効果への期待は大きいものです.

他の薬剤でもそうですが,いい薬であればあるほど,注意点や禁忌を常に心がけるべき,というのが持論です.
いい薬は使用される頻度が多くなり,地雷を踏む可能性も高いからです.

安全に,有効に,この新薬を使用していきたいものです.

余談:脱水の副作用に関して

脱水は,とにかく気を付けるべき副作用です.

ここまで色々な有効性が言われている薬剤でも,この脱水の副作用の一点のみで,臨床医が距離を置いていると言っても過言ではありません.

しかし,本記事でも何度か言及している通り,いくら近位尿細管に作用しても,より遠位の尿細管からのフィードバックが起きるので,致命的な脱水とはなりにくいのではないか,と個人的には思います.

そのように思う根拠は,心不全加療における利尿剤使用経験です.
利尿作用として強力なループ利尿薬ならばつゆ知らず,サイアザイドやスピロノラクトン単剤で,脳梗塞や急性腎障害が,そう簡単に起きるでしょうか?
やはり,SGLT2阻害薬でも言われている通り,他の尿細管部分でフィードバックが起きるので,そう簡単には致命的脱水とはなりません

利尿作用のチャンピオンのような,ループ利尿薬ですら,長期使用や高用量使用では,代償機構としてRAA系が亢進する(してしまう)ことは有名であり,そのために,我々はスピロノラクトンの併用などを開始するわけです.

故に,私個人としては,導入期を除いて他の利尿剤の併用がなければ,SGLT2阻害薬の脱水リスクはそこまで大きくないだろう,と思っています.

裏を返せば,利尿剤を併用しているときは,真に気を付けるべきです.

実際に,EMPA-REGではSGLT2阻害薬投与群の43.7%に利尿薬が併用されており,そのために脳梗塞などの重篤な副作用につながったのではないか,とも推測されています.


 

まとめ

尿糖排泄促進作用というユニークな薬効を持つSGLT2阻害薬.

その特徴は

  • 低血糖が少なく,空腹時血糖も食後血糖も下げ,他剤との併用制限もないので使いやすい仕様
  • 心血管イベント,特に心不全を有意に予防する効果
  • その他,腎症抑制効果内臓脂肪減少効果血圧低下効果もある
  • 主な注意点は,高齢者などにおける脱水尿路感染症(特に女性)性器感染症(特に女性)に注意

となっています.

副作用やエビデンスの観点から,肥満若年心不全などの症例では積極的に使っていきましょう!

 

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