αグルコシダーゼ阻害薬(αGI)って聞いたことありますか?
糖尿病治療薬の1つですよね.
現状,ガイドラインの推奨,エビデンス,安全性,使いやすさなどの観点で,糖尿病治療薬の3大巨頭は,メトホルミン,DPP4阻害薬,SGLT2阻害薬です.
≫糖尿病治療の第一選択薬の選び方の解説はこちらの記事.
一方で,αGIは矢面(やおもて)に出ることも少ないので,“マイナーな薬剤”,“なんとなく使えればいいかな”みたいな扱いしてませんか?
しかし,αGIを使うべき場面は必ずあります.
なぜなら,αGIは数少ない食後高血糖改善薬だからです.
さらに,αGIは食後高血糖改善薬の中でも最も低血糖の副作用が少ない,安全な薬剤です.
糖尿病経験の浅い人こそ,安全なαGIを使いこなしたくないですか?
私は糖尿病専門医ではないですが,心血管疾患の管理上,糖尿病加療の経験は少なくありません.
そんな私が,今回は,αGIの使いこなし方をわかりやすく解説します.
αグルコシダーゼ阻害薬の副作用と良い適応を整理する【低血糖は少ない?】
食後高血糖の改善を主な目的とした糖尿病薬は,αGIの他にもグリニド(速効型インスリン分泌促進薬),速効型・超速効型インスリン注射などがあります.
αGIは,それらに比し低血糖リスクが低く,高齢化していく社会において,絶対に使いこなせた方がいい食後高血糖改善薬です.
作用機序
αGIは,糖質の吸収・消化を遅延させることで食後高血糖を改善し,インスリン分泌を節約するという作用を持ちます.
基本的には,二糖類を単糖類に分解する作用だけですが,アカルボースのみ,αアミラーゼの阻害作用があります.
余談:低血糖時はブドウ糖
よって,低血糖時は,ブドウ糖(グルコース)を使いましょう.
この作用機序から,どのような副作用や,良い適応が生まれるのかを整理していきます.
αGIの注意すべき副作用は2種類【消化器症状と肝障害】
先にも述べた通り,αGIは単独での低血糖は少ない薬剤です.
「糖質の吸収・消化を遅延させる」という作用は“血糖を下げる”というよりは“血糖が上がりにくくする”ということなので,低血糖を起こしにくいことはなんとなく想像できます.
そんなαGIで注意すべき副作用は2つ.
消化器症状と肝機能障害です.
副作用➀:消化器症状
下痢・軟便,便秘・腹満などの,消化器症状が出現することが少なくありません.
これらの消化器症状は,1~2ヵ月使用していると,改善・消失することが多いのですが,稀にイレウスを起こします.
ゆえに,イレウス既往,腹部手術既往のある人への使用は控えるべきです(禁忌にはなっていません).
また,消化器症状やイレウスを避けるために,少量から漸増していくような使用法も検討してください.
副作用➁:肝機能障害
肝機能障害にも注意が必要です.
劇症肝炎等の重篤な肝障害が出る可能性も示されているので,投与開始6カ月以内は,特に肝機能の推移に注意してください.
余談:
ボグリボース(ベイスン®)とミグリトール(セイブル®)の添付文書には,肝機能チェックの記載はありませんが,肝障害の副作用の記載はあるため,同様の対応が望ましいです.
ちなみに,ミグリトールのみ劇症肝炎の報告がない.(他2剤には報告あり)
αGIの副作用まとめ
・下痢・便秘などの消化器症状に注意
・イレウス既往・腹部手術既往には慎重投与
・消化管の副作用を低減するために少量からの服用開始も考慮
・肝機能障害に注意.
・投与開始6カ月以内に肝機能のfollowが推奨
禁忌やふさわしくない適応は
使い慣れていない薬を使うときって,禁忌や,ふさわしくない適応を知っておきたくないですか?
わかりやすく解説します.
禁忌・慎重投与
まず,禁忌はありません.
使いやすい薬剤ですよね.
ただし,イレウスのリスクがあるので,イレウス既往,腹部手術既往の症例は慎重投与としましょう.
ふさわしくない適応:服薬アドヒアランス不良例
禁忌や慎重投与というわけではないのですが,αGIは服薬アドヒアランス不良例では使用しづらいことに注意が必要です.
というのも
「食直前内服で,基本的に1日3回」
が用法なので,結構きちんとした患者さんでないと,用法の遵守が難しいです.
さらに,消化器の副作用の頻度は少なくないので,治療意欲の低い患者さんは,うまく継続できないかもしれません.
このアドヒアランス不良の対策として,簡単でオススメな方法があります.
それは
服薬回数を,毎食前ではなく1日1-2回に減らすこと
です.
単純に用法を守りやすくなりますし,消化器症状も出にくくなります.
服用回数を減らす場合は,たくさん食べる食事(big meal)の前は残しておきましょう.(例. 夕飯をガッツリ食べる生活なら,夕食直前1回内服,とか)
αGIの禁忌やふさわしくない適応
・禁忌はなし
・イレウス既往,腹部手術既往の症例は慎重投与
・アドヒアランス不良は,αGI最大の弱点
・アドヒアランス改善のために,服用回数を減らす工夫も考慮
良い適応と,特殊な適応
次は,逆に,進んで使用した方がいいような良い適応や,少し変わった適応に言及していきます.
良い適応
αGIが良い適応となるのは,言わずもがな,食後高血糖です.
特に,低血糖のリスクがとても低いので,血糖値やHbA1cが少しだけ高めの症例や,高齢者,腎障害症例で使用しやすいです.
ただし,高齢者は,前述したアドヒアランスの低下だけ注意です,
あえてαGIを選択する時は,他剤がふさわしくない状況の把握が大事です.
肥満症例に関して
DPP4阻害薬は,肥満症例では作用が減弱するため,あまり得策ではありません.
≫DPP4阻害薬の弱点などはこちらの記事.
グリニドは,インスリンを分泌させる作用なので,体重増加を起こす可能性があり,こちらもベストチョイスとはいいがたいです.
肥満症例の食後高血糖は,αGIかGLP-1アナログを検討するといいです.
GLP-1アナログは注射製剤なので,その敷居を越えられる場合に限られます.
一方で,他の食後高血糖改善薬と比べた時,αGIの弱点は,血糖降下作用が弱いことです.
よって,「まずαGIを試してみて,作用が足らなければ,他剤を足す or 切り替える」という選択の仕方もありです.
特殊な適応
(糖尿病ではなく)耐糖能異常
アカルボースとボグリボースは,耐糖能異常から2型糖尿病への進展を有意に抑制したエビデンスがそれぞれあります.
(アカルボース:STOP-NIDDM試験,ボグリボース:VICTORY試験)
また,ボグリボース(ベイスン®)のみ,耐糖能異常にも適応を獲得しています.
エビデンス的にはアカルボース(グルコバイ®)も有効なんですが,残念ながら保険適応はありません.
後期ダンピング症候群
後期ダンピング症候群に対するαGIの使用は,保険適応はありませんが,食後血糖の改善の報告があります.
後期ダンピング症候群の引き金は,胃切除により食物が急激に小腸へ流入することによる食後の急激な血糖上昇なので,αGIの薬理作用は理にかなっています.
有効なことも多いですし,リスクも低いので,使いやすいです.
ステロイド糖尿病
ステロイド糖尿病は食後高血糖が中心なので,αGIは有効です.
>ステロイド糖尿病のまとめはこちらのnote記事.
αGIの良い適応
・低血糖リスクの高い高齢者や腎機能障害例
・肥満症例の食後高血糖
・耐糖能異常(保険適応はベイスン®のみ)
・後期ダンピング症候群(適応外使用)
・ステロイド糖尿病
まとめ
要点をまとめます.
αGIの副作用まとめ
・下痢・便秘などの消化器症状に注意
・肝機能障害に注意/投与開始6カ月以内に肝機能チェック
αGIの禁忌やふさわしくない適応
・禁忌はなし
・イレウス既往,腹部手術既往の症例は慎重投与
・アドヒアランス不良は,αGI最大の弱点
・アドヒアランス改善のために,服用回数を減らす工夫も考慮
αGIの良い適応
・低血糖リスクの高い高齢者や腎機能障害例
・肥満症例の食後高血糖
・耐糖能異常(保険適応はベイスン®のみ)
・後期ダンピング症候群(適応外使用)
・ステロイド糖尿病
特殊なパターンを除けば,αGIが糖尿病治療薬の第一選択となることはほぼないと思います.
しかし,“空腹時血糖は高いのにHbA1cが高い”など,食後高血糖が疑われる症例の併用薬として,αGIの出番は少なくなくないと思うので,是非明日からでも実際の診療で使ってみてください.
また,3種類あるαGIのどれを選んだらいいか迷う場合は,以下の記事も参考にしてみてください. 食後高血糖改善薬の中でも最も低血糖の副作用が少ない,安全な薬剤,αグルコシダーゼ阻害薬(αGI). ≫αGIが適している症例の選び方に関してはこちらの記事. 本邦では3種類のαGIが使用可能ですが,結 ... 続きを見る
αグルコシダーゼ阻害薬の一覧と使い分け【各薬剤間の違いまとめ】
≫糖尿病治療薬の一覧を,俯瞰でザックリ見渡すためにはこの記事.
≫糖尿病治療の第一選択薬の選び方の解説はこちらの記事.
この記事のために引用した文献・webページなど
・糖尿病治療ガイド2018-2019 日本糖尿病学会 (著)
・科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013 日本糖尿病学会 (編集)
・CKD診療ガイド2012 日本腎臓学会 (編集)
・ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブック 岩岡 秀明 (編集), 栗林 伸一 (編集)
・レジデントノート増刊 Vol.22 No.5 改訂版 糖尿病薬・インスリン治療 基本と使い分けUpdate〜新しい薬剤・デバイス・エビデンスも理解し、ベストな血糖管理を! 弘世 貴久 (編集)
・日本腎臓病薬物療法学会webページ
・糖尿病リソースガイドwebページ
・American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes-2019. Diabetes Care 2019; 42: S1-S193
・Reduced vascular events in type 2 diabetes by biguanide relative to sulfonylurea: study in a Japanese Hospital Database. BMC Endocr Disord. 2015 Sep 17;15:49.