IABPの管理に苦手意識はありませんか?
そんな苦手意識の多くは合併症への"怯え"から来ていませんか?
確かに,IABPの症例は重症症例であることは多く,合併症発生は致命的になりえます.
しかし,IABPの合併症管理自体はそこまで複雑ではありません.
今回の記事は,IABP管理に関わる医療スタッフ向けに,循環器専門で心不全治療・重症患者管理が特に好きな私が,ノンストレスにIABPの日々の管理ができるようなルーチンを解説します.
3STEPルーチン化でIABPの合併症管理の苦手意識はなくなる
- 胸腹部症状を問診しながら,穿刺部→足→チューブをみる
- レントゲンチェック.心不全の評価とバルーン先端確認
- 採血チェック.貧血・血小板減少,臓器障害,炎症反応
これだけだと思えば簡単じゃないですか?
具体的なチェックポイントを深堀りします.
胸腹部症状を問診しながら,穿刺部→足→チューブをみる
胸腹部の痛みは,血管損傷や臓器血流障害の徴候かもしれないので注意です.
穿刺部は出血,腫脹,感染徴候の有無を確認.
下肢の血色不良,冷感,足背動脈の触知不良は血流障害の徴候です.
チューブに曇りや血液混入があった場合,バルーンが破裂しているかもしれません.
レントゲンチェック.心不全の評価とバルーン先端確認
一般的な心不全の評価は当然しましょう.
加えて,バルーン先端の位置を確認です.
適切な位置は,左鎖骨下動脈起始部の下方約2cm.
採血チェック.貧血・血小板減少,臓器障害,炎症反応
貧血,血小板減少は,最も大事な合併症指標です.細心の注意を払ってください.
その他,炎症反応,腎機能,逸脱酵素(AST,ALT,LDH,CK,Lacなど)は採血項目に入れて毎日チェックしましょう.
IABPの合併症とチェックポイント・対応のまとめ
実際に行うチェックは上述の内容でおしまいです.
では,次は具体的なIABPの合併症とそのチェックポイント,対応を確認します.
IABPの合併症
・下肢虚血
・カテーテルによる血管損傷
・穿刺部トラブル(多い)
・血小板減少(多い)
・感染
・腹部臓器血流障害(稀)
・バルーン破裂(稀)
読んでみて,なんとなく見識を深めてください.
➀下肢虚血
IABP挿入血管の血流阻害で生じえます.
チェックポイントは,血色,下肢体温,足背動脈の触知,CK,Lacなどです.
対応は,基本的に抜去(入れ替え)です.
➁カテーテルによる血管損傷
大動脈解離・穿孔,その他血管損傷が生じえます.
基本的には導入時のトラブルですが,稀に,蛇行血管などに留置した場合に,バルーンの駆動で位置がずれて,遅れたタイミグで血管損傷が起きることもあるので注意です.
チェックポイントは,胸腹部症状,レントゲンでのバルーン先端位置などです.
対応は,状況によりますが,造影CTなどで出血点を同定し,場合によっては経カテーテル的止血や,外科的処置が必要になります.
➂穿刺部トラブル
仮性動脈瘤,動静脈瘻,後腹膜血腫などがあり,頻度は少なくありません.
抗凝固療法をしている場合は,より注意が必要です.
チェックポイントは,穿刺部の観察,シャント音,Hb.
対応は,CTです.可能なら造影もしましょう.治療はそれぞれの病態によります.
➃血小板減少
バルーンによる器械的な消耗が考えられており,頻度は少なくありません.
チェックポイントは,血小板値.
対応は,他の血小板減少の除外.
状況的に,抗生剤の副作用や,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)などが鑑別になることが多いです.
疑わしい場合は,早期のIABP抜去目指しつつ,必要なら輸血でしのぎます.
➄感染
穿刺部の局所感染や敗血症などがありえます.
チェックポイントは,穿刺部の観察,炎症値,体温.
対応は,血液培養,創部培養,他の熱源否定,抗生剤などです.
たいていスワンガンツカテーテルも入っており,カテーテル感染のリスクが高いからです.
➅腹部臓器血流障害
IABPのバルーンが,腹部の血管を閉塞したり,アテローム塞栓を飛ばしてしまうことで起こりえます.腸管虚血・壊死,急性腎不全などが起きます.
チェックポイントは,腹部症状,レントゲンでバルーンの位置が低くないか,腎機能やLacなどの逸脱酵素.
対応は,バルーンの位置修正やCTなどです.
➆バルーン破裂
ヘリウムガスや血栓形成による塞栓をきたします.
チェックポイントは,ビニールチューブの曇り、血流の逆流など
対応は,基本的に抜去(入れ替え)です.
私は自分の症例では経験したことがなく,同施設での経験では,器械がアラームとともに停止し,即抜去したことでトラブルなく経過しました.
器械は優秀です.
IABPで一番大事な管理【血圧低下はしていませんか?】
IABP管理中のその患者さん,血圧低下していませんか?
前述したような合併症を意識した日々のチェックがIABPの管理には重要です.
しかし,その観察をゆっくりする前にひとつ確認を.
IABP留置中の血圧低下
IABP管理中の血圧低下は,対応が遅れると致命的なので,血圧の推移は最初にチェックしておきましょう.
IABP留置中の血圧低下の原因
➀まずは出血トラブル
:穿刺部視診,シャント音,Hb,場合によってCTや穿刺部の血管エコー
➁急性冠症候群
:胸部症状,心電図,心筋逸脱酵素,心エコー
➂敗血症などのその他のショック
出血トラブルは補助循環の宿命
前述した合併症の中で,結局のところ高頻度かつ実際に悩まされることが多いのは出血です.
出血はIABPに限らず,補助循環全てに言える宿命的な合併症になります.
≫さらに高度な補助循環・PCPSの合併症も知りたい方はこちら.
補助循環を使用しているような状況で,Volume lossや貧血は普段以上に致命的になりやすいので,過剰なくらいケアしていきましょう
IABP管理時の抗凝固療法【本当に必要?】
「IABPの管理と言えば,まず抗凝固だろ」
と思い浮かべる人はいませんか?
実際に多くの施設でIABP管理中は抗凝固療法を行っていると思います.
しかし,実は,IABP管理時の抗凝固療法には有効性のエビデンスがありません.
では,なぜ基本的に行うのか.
それはガイドラインに記載されているからです.
IABP挿入後,未分画ヘパリン(1万単位/日)を投与する.なお,活性化凝固時間(ACT)を200秒前後(APTT60秒前後)に維持するのが望ましい.
しかし,繰り返しになりますが,抗凝固療法を行うことが血栓塞栓症などを予防した,もしくは生命予後を改善した,などという明確な有用性は示されていません.
むしろ,出血トラブルは当然増えるため,出血性合併症が懸念される場合や,開心術後は抗凝固療法なしでIABPを使用することも少なくありません.
≫IABPの抗凝固療法に関しての詳細はこちらの記事でまとめています.
IABPの合併症管理のまとめ
以下のような合併症が起きます.
IABPの合併症
・下肢虚血
・カテーテルによる血管損傷
・穿刺部トラブル(多い)
・血小板減少(多い)
・感染
・腹部臓器血流障害(稀)
・バルーン破裂(稀)
これらをスクリーニングするためのルーチンがこちら☟
- 胸腹部症状を問診しながら,穿刺部→足→チューブをみる
- レントゲンチェック.心不全の評価とバルーン先端確認
- 採血チェック.貧血・血小板減少,臓器障害,炎症反応
そして,最も重要なのは出血合併症に対する警戒心であり,疑った場合は精密検査をためらわないこと.
1:1設定のIABPは必ずしも抗凝固療法が必要ではない,ということも覚えておいてください.
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