心臓カテーテルは,様々な心疾患を対象として行われる血管カテーテル検査・治療となります. 心臓カテーテルをご存知ですか? 私は,心臓カテーテルのことを初めて患者さんに説明する時は,「ボールペンの芯くらいの太さの,ストローみたいな中空構造の管を血管内に入れます.」と説明しています. (一般的 ... 続きを見る
(☟未読の方は前回の記事を読んでからこちらの記事を読んだ方が理解がいいと思います.)
心臓カテーテルの基本➀ 対象となる疾患と分類【研修医・看護師向け】
では実際に「狭心症疑いの患者さんが来ました」「カテーテルをやりましょう!」
となったとき,最初の疑問は「どこから,どうやって始めるの?」です.
今回は,600件以上カテーテル検査治療行ってきた私が,実はあまり誰も教えてくれていないカテーテルの挿入の仕方や,カテーテルのサイズ・アプローチ部位の違いについて説明します.
カテーテルの術前術後管理にも大きく関わる内容なので,看護師さんや循環器ローテーション中の研修医の方は是非読んでみてください.
どうやってカテーテルを血管内に入れるの? -シースイントロデューサー-
心臓カテーテルでは血管にカテーテルを入れます.
しかし,尿道の様に,血管には開口している出入口はありません.
1956年に心臓カテーテル法を考案したフォルスマンは,血管を切開してカテーテルを挿入する方法(カットダウン法)で,心臓カテーテルを世に広めました.
その後,カテーテルデバイスの改良によって,末梢点滴ラインなどと同様に,経皮的にカテーテルを挿入することが可能となりました.
シースって何?
シース(正式には“シースイントロデューサー”)は,カテーテルが経皮的に血管内に入るための“出入口”です.
先ほども言ったとおり,血管には外界と通じる出入口はないので作るしかありません.
シースは,開閉可能な血管の“門”になるわけです.
とはいえ,(シースを用いずに)直接カテーテルを経皮的に入れて操作することも可能です.
しかし,カテーテルの先端を操作するために,カテーテルは頻繁に押し引きしたり,回したりするものです.
シースがない場合は,カテーテルを操作する時に,皮膚や皮膚に近い血管に物理的なストレスがかかってしまいます.
血管の蛇行が強い症例などでは,血管損傷などのリスクにも繋がります.
シースを用いると,皮膚や(シースが届く範囲の)皮膚に近い血管にストレスがかからないので,ストレスを抑えて安全かつ迅速にカテーテルを行うことが可能になります.
カテーテルの太さに違いはあるの?
前回の記事で,カテーテルの太さのイメージを「ボールペンの芯くらい」と表現しましたが,これは診断カテーテルで最もよく使用される5Fr(フレンチ)のカテーテルの太さのイメージです.
その他にも色々な太さのカテーテルがあります.
カテーテルが太くなれば太くなるほど,出血リスクが高くなり,侵襲性も高くなります.
故に,可能な限り細いカテ―テルを選択したいですが,カテーテルサイズに依存するデバイスもあります.(例:IABP,PCPSなど)
また,同じPCIでも,カテーテルが太い方が,治療手技が容易なります.(専門的な話になるので詳細な説明は省きます.)
どこから血管カテーテルを入れるの? -多彩なアプローチ部位とその特徴-
血管カテーテルを挿入する部位を"アプローチ"と言います.
静脈アプローチは,中心静脈カテーテルでもおなじみな部位がほとんどなので,特徴の説明は割愛します.
ここからはそれぞれの動脈アプローチの違いを解説します.
橈骨動脈アプローチ
メリット
・止血が簡単.
・出血合併症のリスクが低い.
デメリット
・細いカテーテルを使用する必要がある.
・蛇行が強い場合,手技困難.
・稀に橈骨動脈が閉塞してしまう.
大腿動脈アプローチ
メリット
・穿刺が容易.
・太いカテーテルも使用可能.
・動脈閉塞の心配がない.
デメリット
・止血がやや大変.
・出血合併症を起こしやすい.
・術後安静臥床が必要なので,患者さんの負担が大きい.
後腹膜血腫などの大腿動脈アプローチに伴う出血合併症は,時に命にかかわることもあります.
故に,私たちカテ―エル施行医は,細心の注意を払って穿刺部の止血を行うわけですが,動脈硬化の強い血管や肥満体型の方はしばしば止血に難渋します.
一方で,橈骨動脈のすぐ下には骨があり,圧迫がしっかりでき,血腫ができるスペースもありません.
この安全性が橈骨動脈アプローチの売りであり,このアプローチが浸透することで心臓カテーテルの侵襲性が小さくなり,その敷居が低くなりました.
但し,弱点として,解剖学的に大腿動脈よりかなり細い血管であることである.
このため,使用できるカテーテルは細いものとなり,橈骨動脈閉塞のリスクもあります.
CKDの患者さんでは,シャント用の血管が無くなってしまうので,基本的には橈骨動脈アプローチは選択しないことが多いです.
上腕動脈アプローチ
上腕動脈は,橈骨動脈より太く,血管蛇行の影響や閉塞の心配は軽減されます.また,止血時も,大腿動脈アプローチのような安静臥床は不要です.
一見バランスが取れていそうですが,出血合併症を起こしたとき,神経損傷やコンパートメントなどのリスクが高く,学会などでも優先的に選択すべきでないとされています.
遠位橈骨動脈アプローチ
遠位橈骨動脈アプローチは新しいアプローチの考えです.
橈骨動脈アプローチ同様の安全性で,止血時に手首を曲げても良くなるので,患者さんの負担をさらに減らすことができます.
万が一に動脈閉塞しても,橈骨動脈は温存されるので,シャント血管などで困ることも少なくなります.
但し,穿刺がやや困難であり,血管径は橈骨動脈以上に細くなります.
患者さんの負担は少なくなりますが,手技の習熟や適応はしっかり考えていかなければいけない手法ですね.
まとめると以下のようになります.
ココがポイント
・橈骨動脈アプローチが,安全性や患者さんの負担の少なさから基本的なアプローチ.
・難しいPCIなどで,太いカテーテルが必要な時は大腿動脈アプローチ.
・CKD患者は橈骨動脈アプローチは避け,大腿動脈アプローチ.
・上腕動脈アプローチは,他のアプローチより優先しない.
・遠位橈骨動脈アプローチは,今後の発展に期待.
まとめ
カテーテルの始め方,サイズやアプローチの違いについて説明しました.
「橈骨動脈から5Frのカテーテルを入れた患者さん」と「大腿動脈から7Frのカテーテルを入れた患者さん」がいた時に,どちらが術後の状態に注意が必要かわかりましたか?
わかったのであれば,この記事を読んだ甲斐ありです.明日のあなたは,昨日のあなたより優れたカテーテルスタッフですよ.
この記事のために引用した文献・webページなど
・改訂版 確実に身につく心臓カテーテル検査の基本とコツ 中川 義久 (編集)
・ここから始める心臓カテーテル検査 矢島淳二(編集)
・やさしくわかる心臓カテーテル 検査・治療・看護 齋藤 滋 (監修)
・心カテブートキャンプ!webページ