SGLT2阻害薬を使ったことありますか?
心血管イベント(特に心不全)の抑制効果などが認められ,糖尿病治療薬の中では未だに注目度が高い薬剤です.
≫SGLT2阻害薬の特徴や注意点をまとめた記事はこちら.
今回は,循環器内科だからこそ使用頻度が高くなっているSGLT2阻害薬の使用経験も踏まえ,SGLT2阻害薬の中での具体的な使い分け(drug effectの比較)の話をしていきます.
drug間の比較は,製薬会社でも縛りが多いです.
また,医師が語るにしても,権威ある先生が贔屓したとあっては色々と問題も生じます.
結果として,drug間を比較して解説しているページは数少ないと思うので,貴重な内容だと思って是非読んでみてください.
SGLT2阻害薬の比較
最初に言ってしまいますが,注目されている心血管イベント抑制効果などは,おそらくclass effect(SGLT2阻害薬であれば,全ての薬剤で同様の有効性が望めるということ)だと思っています.
故に,個人的に,薬剤の使い分けは深い意味は持たないと考えています.
まさかその時にあみだくじで選ぶわけにもいきませんし,薬剤選択の自分ルールを決めておきましょう.
SGLT2阻害薬の差別化のポイントは,➀エビデンスの有無,➁SGLT2選択性,➂肝代謝はグルクロン酸抱合かCYP代謝か,➃血中半減期,です.
エビデンス:心不全ガイドラインでの推奨
SGLT2阻害薬といえば,心血管イベント抑制効果です.
特に,心不全の抑制効果が有意であったため,急性・慢性心不全ガイドラインでは,エンパグリフロジン(ジャディアンス®)とカナグリフロジン(カナグル®)の使用が,心不全合併糖尿病でclassⅡa,心血管既往のある糖尿病患者の心不全予防ではclassⅠAの推奨度です.
なぜこの2剤か,というと,実際に信頼性のあるデータを出したか否かの違いです.
個人的には,心不全患者であれば,エンパグリフロジンかカナグリフロジンを選択しています.
なぜかと問われれば,「EBMの時代に,そうしない理由もないから」です.
SGLT2選択性で大別する
SGLTには6種類のアイソフォームがあり,腎臓ではSGLT1と2が発現しています.
ほぼ全てのグルコースは尿細管で再吸収されますが,近位尿細管の起始部でSGLT2により90%以上が再吸収され,遠位側でSGLT1により残り10%が再吸収されます.
SGLT2は腎臓に特異的に発現しており,発現数も多いです.
一方で,SGLT1の腎臓での発現数は少なく,腎臓以外にも小腸、心臓、気管,脳などに発現します.
SGLT2選択性が高い,ということは,余計な作用が無くなるので,副作用が少ないことになります.
逆に,SGLT2選択性が低いことの意味は何でしょう.
SGLT1の作用は,①小腸でのグルコース・ガラクトース吸収,②心筋での糖取り込み,③骨格筋での糖取り込み,④脳内へのブドウ糖輸送,などが言われているため,SGLT1阻害によるデメリットは,低血糖リスク,下痢などの消化器症状,虚血心筋や虚血脳への悪影響,などが懸念されています.
しかし,SGLT2阻害時は,相対的ににSGLT1が活性化するため,SGLT1阻害作用があることで,薬効(血糖降下作用)を高める可能性も考えられます.
また,腸管からのグルコース・ガラクトース吸収を阻害する作用は,αグルコシダーゼ阻害薬と同様(食後血糖の上昇を緩徐にする)の作用があるかもしれない,と言われており,カナグリフロジンなどで少数症例の食後血糖改善効果の報告があります.
高SGLT2選択性なのが,エンパグリフロジン,ルセオグリフロジン,トホグリフロジン,ダパグリフロジンであり,低SGLT2選択性なのが,カナグリフロジンとイプラグリフロジンです.
ダパグリフロジンは,選択性は中間になりますが,高SGLT2選択性に一応分類されます.
肝臓での代謝方法と血中半減期
肝代謝の違いですが,CYP代謝は遺伝子多型の影響があり,薬効にばらつきが出る可能性があります.
すると,CYP代謝のルセオグリフロジンとトホグリフロジンはあえては選びたくはなくなります.
ただ,トホグリフロジンは,唯一半減期がとても短いという特徴があり,夜間頻尿の訴えが多い人には,少しだけ検討します.
まとめ
高齢者など,できるだけ副作用を気にせずに使用したい人には,高SGLT2選択性が無難です.
一方,若年者で,複雑な背景疾患がなく,とにかく血糖をしっかり下げたい人には,低SGLT2選択性を選んでみましょう.
その他,用量調節ができるかどうか,も一応表に入れておきました.
服薬アドヒアランスが悪く,どうにか単剤で血糖調整をつけたい,なんて人は用量調節ができる薬剤を優先してもいいかもしれません.
ココがポイント
心不全ならエンパグリフロジンかカナグリフロジン
副作用を気にするときは高SGLT2選択性
とにかく血糖をしっかり下げたいときは低SGLT2選択性
(私は循環器内科医なので)エンパグリフロジンかカナグリフロジンがあればいずれかを使用
なければ上の表を眺めて決めています.
そんな中,米食品医薬品局(FDA)が2020年5月5日に,ダパグリフロジンについて「成人の左室駆出力が低下した心不全(HFrEF)に対する、心血管死亡または心不全入院の予防」という適応を追加すると発表したようです.
近い将来,SGLT2阻害薬は,"糖尿病薬として"ではなく,"心不全治療薬"として紹介される日が来そうですね.