糖尿病治療薬解説 糖尿病

DPP4阻害薬の特徴まとめ【副作用やデメリットはあるのか】

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飲み会の時に「とりあえずビール」という呪文(?)があります.

私にとって,DPP4阻害薬は,糖尿病治療の「とりあえずビール」です.

私が作成した“経口血糖降下薬の立ち位置図”では,やせ寄りのど真ん中に大きく位置させています.
(なぜ“やせ寄り”にしたかは後でわかります.)
≫参考記事:糖尿病薬の種類まとめ【立ち位置を理解する】.

血糖降下薬の立ち位置 肥満 やせ Drぷーオリジナル

にもかかわらず,欧米での使用率は高くなく,米国のガイドラインなどにおける推奨度は高くありません

なぜでしょうか.
何かとんでもない副作用やデメリットがあるのでしょうか?

そんなDPP4阻害薬の特徴を,心血管疾患の予防のために日々糖尿病治療に携わっている私が,非専門医の方にもわかりやすいように解説します.

まずどんな薬か:DPP4阻害薬の作用機序


DPP4阻害薬は,インクレチン関連薬,というものになります.

インクレチンは,小腸から分泌されるホルモンであり,通常,食事摂取の刺激で分泌が促されます.

インクレチンは,膵臓に働き,インスリン分泌を促進したり,グルカゴン分泌を抑制することで肝臓の糖新生も抑えます
その他,胃酸の分泌抑制や,食欲中枢の抑制などの作用も併せ持ち,多面的に血糖改善効果を得ます.

このインクレチンを体内で不活化させているのが,DPP4です.
DPP4阻害薬は,このDPP4の作用を阻害することで,インクレチンの作用を増強することで効果を得る薬剤です.

また,これらのインクレチンの作用は,高血糖下でないと起こらないとされ,DPP4阻害薬が安全たる所以となります.

 

理想の糖尿病薬とは何か:DPP4阻害薬の特徴

 

糖尿病治療の歴史の中で,理想的な糖尿病治療薬とは,右に示すようなものとされてきました.

理想的糖尿病治療薬とは

・低血糖を起こさない
・血糖が良く下がる,変動が減る
・体重増加を来たさない
・膵β細胞を疲弊させない
・副作用を起こさない(禁忌がない)
・アウトカムを改善する
・安価

そんな糖尿病治療薬に望まれる特徴の多くを,DPP4阻害薬は持っています.

DPP4阻害薬は理想の糖尿病治療薬?

DPP4阻害薬は,正常血糖下では作用しにくいため,単剤で低血糖が起こることはほぼありません

逆に,血糖上昇時に効果を発揮することから,血糖変動を少なくします

SU薬などで見られるような,不必要な高インスリン血症や食欲亢進はないので,体重増加も起こりにくいです.

膵臓にインスリンを分泌させる作用はあるので,必ずしも膵保護的とは言いきれませんが,そもそも,2型糖尿病の膵β細胞障害には,インクレチンの効果不全が関わっているのでは,という見方があり,インクレチン作用を改善することで,DPP4阻害薬が,膵保護的に働くことが期待されています
(アナグリプチンの商品名:スイニー®は,"膵臓にいい"から来ているとか...)

最も多い副作用は便秘であり,その他,特別注意すべき副作用もあまりありません.(副作用の詳細は後述)

Drぷー
ここまでの話だけだと,ほぼ完全無欠の糖尿病治療薬に思えますが...

 

なぜ,第1選択薬となれないのか

そもそも,いくら血糖が高かろうが,基本的には痛くもかゆくもありません.

にもかかわらず,高血糖を治療をする目的とは,糖尿病性の細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を起こさないようにするためです.

DPP4阻害薬が,いかに安全かつ有効に血糖をコントロールをできたとしても真のアウトカムとしての,全死亡抑制や心血管イベント抑制効果がなければ,本末転倒になるわけです.

この点において,古参の薬剤でありながら第1選択薬であり続けているメトホルミンは,最もエビデンスに裏付けされているのです.

理想的な糖尿病薬の特徴をいくつも兼ね備えているDPP4阻害薬ですが,なんと,今のところ大規模研究で,全死亡・大血管合併症・細小血管合併症のいずれの抑制効果も有意性を証明できたものがないのです.

同じく新規糖尿病治療薬である,GLP1作動薬,SGLT2阻害薬との3剤で治療効果を比較した大規模な研究でも,DPP4阻害薬のみ死亡リスクを減少させられませんでした.(SGLT2阻害薬は20%,GLP1作動薬は18%,それぞれ死亡リスクを減らした.)
(Association Between Use of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors, Glucagon-like Peptide 1 Agonists, and Dipeptidyl Peptidase 4 Inhibitors With All-Cause Mortality in Patients With Type 2 Diabetes(A Systematic Review and Meta-analysis). JAMA. 2018;319(15):1580-1591. )

DPP4阻害薬のアキレス腱と言えます.

DPP4阻害薬の特徴

・低血糖を起こしにくい
・血糖は有意に下がり,変動も減る
・体重増加を来たさない
・膵β細胞を保護する可能性がある
・重篤な副作用はない
アウトカムを改善しないかもしれない
安価とはいえない

理想的糖尿病治療薬

・低血糖を起こさない
・血糖が良く下がる,変動が減る
・体重増加を来たさない
・膵β細胞を疲弊させない
・副作用を起こさない
・アウトカムを改善する
・安価

 

DPP4阻害薬の注意点

"真のアウトカムを改善させないかもしれない"という残念さはありますが,禁忌もほぼなく使用しやすい糖尿病薬であることは間違いなく,非専門医の方でも使用する機会は多いでしょう.

その使用上における注意点をチェックしていきます.

日本における特殊な使用実態

日本では欧米に比してDPP4阻害薬が使用されやすい傾向があります.

理由の1つは薬価および医療制度の違い
SU薬やメトホルミンに比し,DPP4阻害薬は決して安い薬剤ではないので,民間保険となるアメリカなどでは,"エビデンスがないのに薬価が安くない薬"は日本以上に敬遠されるのでしょう.

もう1つは体格の違い,すなわち,欧米は肥満者が多いことです.
血清DPP4濃度は,肥満者で有意に多いことがわかっており,DPP4阻害薬は肥満患者では効きにくいのです.

つまり,"日本人に有効だから日本で良く使われている"というわけでなく日本では欧米ほど敬遠されていないだけなのです.

あくまで,日本においても推奨度は高くないことを忘れないでください.

副作用:重篤なものは少ないけれど,頭の片隅に入れておくべきもの

インクレチン関連薬は消化管に作用するので,胃腸障害(特に便秘)は代表的副作用です.
イレウスの既往がある患者さんには注意して使用しましょう.

皮膚障害も頻度の多い副作用です.

特徴的副作用として,膵管狭窄・膵炎を起こす可能性が指摘されています.
アルコール摂取胆石既往は,膵炎自体のリスクとなるので,DPP4阻害薬を使用する場合は留意しておきましょう.

自己免疫性疾患を増悪させる,とか,発癌作用がある,とか,心不全が増悪する,などの報告がありますが,いずれも因果関係は明らかとなっておりません

実際に,私や私の周囲の循環器内科医が,DPP4阻害薬を心不全患者に使用しないように留意しているところは,未だに見たことがありません
今のところ,あまり気にしなくていいと思います.

使用時の注意点

肥満症例には効きづらい
あくまでのガイドライン上の推奨度は低いことを忘れない.
胃腸障害(特に便秘)皮膚障害膵炎などが副作用として起こることは知っておく.

 

まとめ

”理想的な糖尿病薬”と称されるほどの明確な有効性と安全性を持ちながら,真のアウトカムを改善させるエビデンスがない決定力の無さから,第一選択薬とはなれないDPP4阻害薬.

これが,私の糖尿病治療薬の「とりあえずビール」です.

腎機能服薬アドヒアランスなどを加味して使い分けていきましょう.

 

Drぷー
医療において,エビデンスは大事ですが,エビデンスが全てではありません

あくまでも糖尿病治療薬の第1選択はメトホルミンであるべきだとは思いますが,高齢化が進み,腎機能のベースが悪く,脱水などによる急性腎障害のリスクや低血糖リスクも高くなってきています.

その中で,副作用・禁忌が極めて少ない,ということは,患者さんにとっても我々医療者にとっても,とても安心できることです.

また,副作用や禁忌が少ないので,血糖コントロール不十分時の追加併用薬としても使いやすいでしょう.

そんな薬だからこそ,非専門医の我々が知っておくべき薬だと思います.

糖尿病治療薬を自分で始めたことのないレジデントの皆さんも,この記事を読んで,明日から"とりあえずDPP4阻害薬"を使ってみてはいかがでしょうか?

☟個々のDPP4阻害薬の使い分けが知りたいという方は,以下の記事もご覧下さい.


 

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