食後高血糖改善薬の中でも最も低血糖の副作用が少ない,安全な薬剤,αグルコシダーゼ阻害薬(αGI).
≫αGIが適している症例の選び方に関してはこちらの記事.
本邦では3種類のαGIが使用可能ですが,結構特徴があるので,今回はそこをわかりやすくまとめていきます.
私は糖尿病専門医ではないですが,心血管疾患の管理上,糖尿病加療の携わる機会は少なくなく,それなりに学習を積んでいます.
その過程でまとめた内容を,αGIの使い分けの仕方を,非専門医でも理解しやすく解説します.(なんせ,私自身非専門医ですからね)
各αGIの比較・使い分け
まず,特徴や違いが一目でわかるようにつくった表が以下になります.
では見ていきます.
➀HbA1c低下作用⇔副作用頻度
HbA1c低下作用,つまりは高血糖を制御する作用は,ミグリトール→グルコバイ→ボグリボースの順だといわれます
ただ,この逆で,副作用(特に消化器系副作用)の頻度は,ボグリボース→グルコバイ→ミグリトールの順に多いとされています.
作用の強さと副作用は,トレードオフの関係で考えましょう.
➁消化器症状の特徴
(消化器症状に関して,アカルボースだけ,下痢・軟便より便秘が多かったとの報告があります.
この違いはアカルボースのみに認められる,αアミラーゼ阻害作用に起因するのではとされています.)
一方,その他のミグリトール,ボグリボースは下痢・軟便の方が便秘より多いとされているので,
- 便秘体質にはミグリトール,ボグリボース
- 下痢体質にはアカルボース
という選択の仕方があります.
➂作用の発現・減弱の速さ:飲み忘れ対策
食直前服薬を忘れた場合,アカルボースなら食事開始15分後まで,ミグリトールなら30分後までは有効という報告があります.
C Rosak, et al. Diabet Med. 1995 Nov;12(11):979-84.
・Administration of miglitol until 30 min after the start of a meal is effective in type 2 diabetic patients.
Kazutaka Aoki, et al. Diabetes Res Clin Pract. 2007 Oct;78(1):30-3.
ミグリトールは,小腸上部で作用を発揮して,小腸下部ではすでに作用を失っています.
ゆえに,食後早期(30-60分)の血糖降下作用が強く,食後120分では弱くなります.
この特性を生かしたのが,このミグリトールの”飲み忘れ対策”です.
アカルボースとボグリボースは,そもそも体内にほぼ吸収されませんが,アカルボースは少しだけ吸収されるらしく,前述した“飲み忘れ対策”の報告もあります.
飲み忘れの多そうなアドヒアランス低下例では,ミグリトール→アカルボースの順で選択するのはいいかもしれません.
余談:最も血糖が下がるミグリトール
逆に,ボグリボースは,副作用を懸念した用量設定になっていて消化器症状が少なく,薬効が弱めになっています.
飲み忘れ対策効果/血糖降下作用 ⇔ 副作用頻度
がトレードオフということですね.
➃耐糖能異常の適応
ボグリボースのみ,耐糖能異常にも適応があります.
これは,アカルボースとボグリボースに,耐糖能異常から2型糖尿病への進展を有意に抑制したエビデンスがあるからであり,なぜか(アカルボースは適応にならず)ボグリボースのみ適応が通っているという現状です.
(アカルボース:STOP-NIDDM試験,ボグリボース:VICTORY試験)
➄薬物相互作用
アカルボースとミグリトールはジゴキシン濃度が低下します.
ゆえに,ジゴキシンを使用している症例はボグリボースが使いやすいです.
アカルボースは,ジアスターゼ含有製剤(☜胃薬)が併用注意です.
ジアスターゼがαアミラーゼ活性を持つため,互いに作用を減弱させるためです.
まとめると,ボグリボースのみ,薬物相互作用を全然気にしなくていいことになります.
各αGIの比較・使い分けのまとめ
ざっとまとめると,こんな感じになります.
各αGIの使い分け
・飲み忘れ対策効果/血糖降下作用 ⇔ 副作用頻度のトレードオフで,ミグリトール→グルコバイ→ボグリボースの順.
・副作用少なめなボグリボースは,ジゴキシンなどとの薬物相互作用も気にしなくていい.
・ボグリボースのみ,耐糖能異常に適応あり.
・アカルボースは便秘が多く,他2剤は下痢が多い.
なぜなら,HbA1c低下効果が最も大きいから.
逆に言えば,αGIの大きな弱点の1つは,結局血糖降下作用が弱いこと,と考えているわけですね.
ちなみに,もう一つの弱点は,服薬アドヒアランス.
こちらに関しては,前回記事で対策も含めて詳しく言及しています.
この記事のために引用した文献・webページなど
・糖尿病治療ガイド2018-2019 日本糖尿病学会 (著)
・科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013 日本糖尿病学会 (編集)
・CKD診療ガイド2012 日本腎臓学会 (編集)
・ここが知りたい! 糖尿病診療ハンドブック 岩岡 秀明 (編集), 栗林 伸一 (編集)
・レジデントノート増刊 Vol.22 No.5 改訂版 糖尿病薬・インスリン治療 基本と使い分けUpdate〜新しい薬剤・デバイス・エビデンスも理解し、ベストな血糖管理を! 弘世 貴久 (編集)
・日本腎臓病薬物療法学会webページ
・糖尿病リソースガイドwebページ
・American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes-2019. Diabetes Care 2019; 42: S1-S193
・Reduced vascular events in type 2 diabetes by biguanide relative to sulfonylurea: study in a Japanese Hospital Database. BMC Endocr Disord. 2015 Sep 17;15:49.
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