高血圧 内科

高齢者の高血圧は許容される?【エビデンスとガイドラインが導く治療方針】

更新日:

※2020/10/11内容改訂
高齢者の高血圧を治療するとき,どんなギアチェンジしていますか?

高齢化に伴い,高血圧患者の有病率が上昇することは明らかです.

一方で,高齢者は副作用も出やすく,エビデンスの後ろ支えがないと
「自分のやっている治療って,正しいことなのかな?害になってないかな?」
という風に,不安になりませんか?

安心してください.

循環器内科として高血圧治療を毎日のように行っている私が,2019年改訂の高血圧治療ガイドラインや背景にあるエビデンスを元に,高齢者の高血圧治療についてわかりやすく解説します.

この記事を読めば,エビデンスとガイドラインに基づく,適切なギアチェンジが身に着けられますよ.

高齢者の高血圧は許容される?【エビデンスとガイドラインが導く治療方針】


高齢者に降圧薬を使用開始して
「ふらついた」「調子が悪くなった」
という反応をされることは,珍しくありません.
 
中には
「年齢が上がれば上がるほど高血圧は許容されるようになる」
なんて話を,患者さん自身や,メディア,時には医師から聞いたことがあります.
 
ホントにそんなことあるんでしょうか?
 
 

結論:高齢者も高血圧は治療しなきゃダメです

2008年のNEJM誌に報告された代表的なtrialを紹介します.

HYVET(HYpertension in the Very Elderly Trial)

80歳以上の超高齢者に降圧療法の意義があるのか検討した大規模臨床試験.

対象患者

欧州,中国,オーストラリア,チュニジアの80歳以上の高齢者.
収縮期血圧が160mmHg以上の持続的な高血圧患者.

介入方法

積極的治療群

利尿薬インダパミド(ナトリックス®)1.5mg/日を投与.
血圧値150mmHg/80mmHgを目標
必要ならACE阻害薬ペリンドプリル(コバシル®)2mg/日あるいは4mg/日を追加投与.

対象群

利尿薬の代わりにプラセボを投与.

評価項目

主要評価項目は脳卒中の発症.副次評価項目は全死亡.

結果

主要評価項目の脳卒中では有意差がなかったが,副次評価項目の総死亡が治療薬群で有意な抑制が確認されたため,試験は途中で打ち切りとなった.
平均観察期間は1年間であった.

ということで,80歳以上の高齢者であっても,高血圧の治療は必要である,という認識が定着しました.

Drぷー
10年以上前の報告ですが,現在に至るまで,高齢者に対する降圧療法の必要性を説明する上で引用され続けています.

ここからは,実際の降圧目標降圧薬の種類の選択はどうしたらいいかを説明していきます.


 

高齢者の降圧目標は緩和できるのか

高齢者であっても,高血圧の治療が必要なことはわかりました.

では,次に
「目標は少し緩めでいいんでしょ?」

という疑問,ありませんか?

ここに関しては,昨年改訂された最新のガイドラインを見ていきましょう.
 

高齢者の降圧目標【昔の考えは払拭すべき】

2019年に本邦の高血圧治療ガイドライン(JSH)が改訂され,成人の降圧目標が130/80mmHg未満に引下げられました

さらに,旧2014年版では150/90mmHg未満であった,75歳以上の降圧目標も,140/90mmHg未満に引下げられており忍容性があれば130/80mmHgを目指すようにも言及されています.

JSH2019 降圧目標 ぷーオリジナル

Drぷー
従来より概ね10mmHgずつ下げられた形です.

背景としては,130/80mmHg未満への厳格な血圧管理が,有害事象を増加させることなく,複合心血管イベントや脳卒中のリスクを有意に低下させることが複数の試験で示されたからです.


色々なパターンで降圧目標が下げられていますが,まとめると
・75歳未満:140/90mmHg →130/80mmHg
・冠動脈疾患:140/90mmHg →130/80mmHg
・両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞を否定した,脳血管障害:140/90mmHg →130/80mmHg
・75歳以上:150/90mmHg →140/90mmHg
となります.

JSH2019 降圧目標 変更箇所 ぷーオリジナル


まとめると,こんな感じです.

JSH2019のポイント


高齢者でも多くの場合,130/80mmHg未満が降圧目標となった.

140/90mmHg未満でも許容されるのは
合併症のない75歳以上
蛋白尿陰性のCKD
両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞を認めるもしくは未確認の,脳血管障害
の3パターン.

つまり,従来あった150/90mmHgという緩い目標値は存在しなくなり高齢者であっても全例140/90mmHgは達成すべきなんです.
 

余談:最近の報告

Effect of Antihypertensive Medication Reduction vs Usual Care on Short-term Blood Pressure Control in Patients With Hypertension Aged 80 Years and Older: The OPTIMISE Randomized Clinical Trial.
2種類以上の降圧薬を服用し,収縮期血圧値が150mmHg未満80歳以上の患者について,医師が判断のうえで降圧薬を1種類減らしても通常どおりの治療を続けた患者と比べて,12週後の血圧コントロールに関して非劣性であった.

追跡期間が12週と少し短いことや,盲検化されていないことが少し気になりましたが,「高齢者に薬を使いすぎじゃありませんか?」という意見を提示している.

しかし,減薬群は,12週時点で降圧薬の減数が維持されていた被験者は187例(66.3%)であり,約3割は降圧薬を元の数に戻していることにも注意.

結局,高齢者の高血圧を許容してはいけないことに変わりはないです.


 

高齢者の高血圧,具体的な対応


上述してきたような降圧目標を,高齢者ならではの注意点にフォーカスして,どのように達成すべきかを解説していきます.

高齢者高血圧の特徴

まず,高齢者の高血圧の病態生理に,どのような特徴があるのかまとめます.

血圧動揺性の増大

血管心筋コンプライアンス(柔軟性)の低下や,圧受容器反射(自律神経反射のトリガー)の低下などが原因として考えられます.

脱水・溢水・電解質異常の易出現

腎機能低下や食事摂取量が不安定であること,などに起因します.

収縮期高血圧が多い

動脈硬化のため動脈の伸展効果が低下し,脈圧が開大しやすくなります.

仮面高血圧の可能性が高くなる

種々の要因(自律神経,腎機能,耐糖能異常など)でnon-dipper型(夜間血圧が下降しにくい)モーニングサージ(早朝高血圧)などのタイプが多くなるためです.

Drぷー
高齢者にACE阻害薬/ARBや利尿剤を使用している場合は,腎機能や電解質をこまめにチェックした方がいいですね.

また,上述のような特徴から,至適血圧の調整が難しくなるので,若年者より慎重に薬剤調整をすべきですね.

高齢者の特殊性

次に,高血圧治療に関連する,高齢者の特殊性をチェックしていきます.

転倒骨折のリスク

高齢者の転倒・骨折は,要介護の原因の10%を占めますが,降圧薬の新規開始・変更時は骨折リスクが上昇するので注意が必要です.
骨粗鬆症患者では,特に積極的適応となる降圧薬がない場合サイアザイド系利尿薬が推奨となります(詳細後述).

過度の減塩や脱水のリスク

体液の恒常性が保たれにくくなるので,季節や摂食内容の変化や,施設入所などの生活環境の変化で,血圧が変動し,服薬調整が必要となる可能性が高いです.

服薬アドヒアランスの低下リスク

単純な理解不足に加え,認知機能の低下,視力の低下(薬剤容器の開封能力)など,多くの因子から服薬アドヒアランスが低下します.
 

高齢者の降圧薬,クラス選択の推奨は?

JSHのガイドラインにおいて高齢者高血圧の第一選択薬は,少量利尿剤長時間作用型Ca拮抗薬ACE阻害薬/ARB,となっています.

Drぷー
特に「高齢者であれば○○を優先して選択する」という旨の記載はありません.
非高齢者と同様ですね.

 

具体的に降圧薬を選択する時のイメージ

合併症のないpureな高血圧なら,確実な降圧効果のCa拮抗薬が無難です.
合併症があるならACE阻害薬/ARBを,非高齢者と同じように検討しましょう.

ただし,いずれも開始は少量からとし,用量調節や副作用出現により注意する.

利尿薬は,高齢者でも有用性が示されており,推奨されている.
しかし,個人的には副作用リスクがやはり高いと考えます.

Drぷー
ALLHAT試験は,そのサブ解析にて高齢者の降圧治療における利尿薬の有用性を示しましたが,報告されたのは2002年です.
現在は,当時よりも高齢化が進んでおり,脱水リスクの高い利尿剤の使用は,慎重にすべきです.

β遮断薬は,降圧のための使用は全く推奨されていないので,心疾患なければ優先して使うべきではないです.
 

高齢者ならではの2つの特殊パターン

主な選択は上述の通りですが,参考までに留意しておくべき2パターンの紹介です.

誤嚥性肺炎の合併

高齢者では,誤嚥性肺炎が多くなります.

ACE阻害薬は,サブスタンスPの分解を阻害することによって嚥下反射・咳反射を改善させることが期待されるので,積極的に使用を検討できます(ARBに同様の効果はありません).
≫ACE阻害薬とARBの違い,詳しい説明はこの記事でしています

骨粗鬆症の合併

サイアザイド系利尿薬には,他の降圧薬と比較して骨折頻度が低下した,という報告がいくつかあります.

Effects of thiazide diuretic therapy on bone mass, fractures, and falls. The Study of Osteoporotic Fractures Research Group. Ann Intern Med. 1993 May 1;118(9):666-73.
Association of 3 Different Antihypertensive Medications With Hip and Pelvic Fracture Risk in Older Adults.JAMA Intern Med. 2017;177(1):67-76.

薬理作用に起因して,血中Ca濃度の増加や,二次的な副甲状腺ホルモンの分泌低下が,その要因となったと考えられています.

副作用の観点から,高齢者へのサイアザイド系利尿薬の使用は敬遠されがちですが,骨粗鬆症症例では一考の価値ありです.
 

高齢者ならではの処方の工夫

高齢者では,服薬アドヒアランスが低下します.

ゆえに,合剤の選択薬剤の一包化1日1回で済むlong actingな薬剤の優先,なども重要です.

また,服薬のタイミングに関して.

なんとなく「朝1回」で始めることが多いと思いますが,高齢者の高血圧は,non-dipper型(夜間血圧が下降しにくい)やモーニングサージ(早朝高血圧)が多いので,「夕食後内服」に切り替えることで,血圧変動をコントロールできることが少なくありません.
 
 

まとめ

結局,高齢者の降圧治療は,基本的には非高齢者と大差ないです.

“合併症のない75歳以上”など,条件が揃った時に限り140/90mmHgに降圧目標を緩和することが認められていますが,75歳以上でも「忍容性があれば130/80mmHgを目指すべき」とつけ加えられており,「高齢者だからといって緩和しすぎる方が有害」という認識です.

他方,高齢者の副作用リスクが高いことは明確なので,

  • 合併症がなければCa拮抗薬
  • (対象となる)合併症があれば,若年者と同様にACE阻害薬/ARB
  • を,慎重な用量慎重な経過観察でまずは試し,

  • (有用性から推奨はされているが)利尿剤若年者以上に慎重に使用
  • 心疾患がなければ,β遮断薬降圧薬としては選択しない

というスタンスを,基本にしましょう.
 
 
また,高齢者の特殊性に対する工夫としては,

  • 誤嚥性肺炎にはACE阻害薬骨粗鬆症にはサイアザイド系利尿薬,をそれぞれ検討するが,無理に選択するほどの強い推奨ではない
  • 合剤一包化などが服薬アドヒアランスの改善のために推奨される.
  • non-dipper型やモーニングサージの症例には,夕食後内服を検討.

などを,チェックしておきましょう.
 
 

Drぷー
社会はこれからますます高齢化していきます.

この記事をここまで読んでくれた方は,そんな社会の高血圧治療の最前線で戦われている方だと思います.

今回の内容が,そんな皆さんの力に,少しでもなれたのであれば幸いです.


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この記事のために引用した文献・webページなど

高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会
降圧薬の考え方、使い方 浦 信行 (著)
よくある副作用症例に学ぶ 降圧薬の使い方 後藤 敏和 (著), 鈴木 恵綾 (著)
・Comprehensive comparative effectiveness and safety of first-line antihypertensive drug classes: a systematic, multinational, large-scale analysis. Lancet. 2019 Oct 24.

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