高血圧 内科

降圧薬の比較・使い分け➀ -高血圧治療超入門ー【最初の1剤とは】

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高血圧の罹患率は,40歳以上の方の50%以上75歳以上になると70%以上にも及ぶとされ,common disease(頻度の多い病気)の王様であると言えます.

そんな中,降圧薬にはいろいろな種類があり,慣れていないとどれを使っていいのか迷いませんか?

今回の記事は,心血管疾患予防の観点から高血圧治療を毎日のように行っている私が,研修医内科が非専門の先生方に向けた降圧薬の比較やその選び方・使い分けについて説明していきます.

降圧薬にはどんな種類があるのか -“ABCD”で覚える-


大まかな種類は以下の5種類(4カテゴリー)があり,“ABCD”で覚えられます.

  • A:ACE阻害薬/ARB
  • B:β遮断薬
  • C:Ca拮抗薬
  • D:利尿薬(Diuretics)
Drぷー
誰が言い出したかは不明ですが,私が研修医の時に習った覚え方です.

「あれ,血圧の薬って他にあったっけ?」
と疑問に思った時に“ABCD”だったら思い出しやすいですよね.

その他,α遮断薬中枢性α2作動薬レニン阻害薬などがありますが,臨床で使用される頻度はあまり多くありません.
(α遮断薬のドキサゾシン(商品名:カルデナリン®)のみ,たまに見かけるかもしれません.)
 

高血圧の第一選択薬とは?

直近の高血圧治療ガイドライン2019で第一選択とされているのは,ACE阻害薬ARBCa拮抗薬利尿薬です.

Drぷー
“ABCD”のB以外ですね.

β遮断薬は2014年の改定で第一選択から外れました

これ
「第一選択と言いながら,4種類もあるのか...」
ってなりませんか?

実は,長い医療の歴史の中で,降圧薬の唯一の第一選択薬というものは決められていないんです.(併存疾患がある場合は除きます.詳細は後述.

どの薬剤を選んだらいいのかを説明していきます.
※本記事内で言及する,“Ca拮抗薬”は,全て“ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬”を指すものとします.
 

二大巨頭! -ACE阻害薬/ARB vs Ca拮抗薬

利尿剤だけ除け者(のけもの)ですが,実臨床ではACE阻害薬/ARBCa拮抗薬,どっちにしようかな」となることがほとんどです.

これは,利尿剤,特に降圧薬として使用されるサイアザイド系利尿薬は,単剤での降圧効果の切れ味が悪く.一方で,低K血症,高尿酸血症,脂質代謝の悪化,糖代謝の悪化,などの副作用があり,敬遠されることが多いからです.

では,この二大巨頭をどう使い分けるか.
※ここから先は,便宜上ACE阻害薬とARBは併せて"1種類"と表現させてもらいます.

Ca拮抗薬「薬効単純!切れ味抜群!副作用も少ない!」

Ca拮抗薬こそ“THE 降圧薬”です.

効果は単純で,血管を拡張させて圧力を下げる,というシンプルなもの.
しかし,そのシンプルさ故に,副作用が少なく禁忌がほとんどありません薬効の切れ味(血圧の下がり方)もいいです.

CCB image

高血圧治療を建築に例えるならば,Ca拮抗薬は,細かいことは気にせずバリバリ働く仕事の早いガテン系大工です.

ACE阻害薬/ARB「エビデンスに裏付けされたエリート」

ACE阻害薬/ARBには,心臓・腎臓・脳血管の臓器保護効果のエビデンスがあります.
また,糖尿病患者においては,糖尿病性腎症の予防効果のエビデンスもあります.

言うなれば,ACE阻害薬/ARBは降圧薬であるとともに,臓器保護薬なんです.

ACE-I ARB image

高血圧治療を建築に例えるならば,ACE阻害薬/ARBは,堅実に結果をを出すエリート建築士です.

使い分けのポイント

2種類ともに高血圧治療のエースなので,結局併用になることが少なくありませんが,その中で,“あえて一剤目はどっちにしようかな”という時の考え方です.

禁忌を踏んでないか

Ca拮抗薬

禁忌

なし

慎重投与

・GERD:増悪の可能性あり

注意すべき副作用

・反射性頻脈
・歯肉肥厚

ACE阻害薬/ARB

禁忌

・妊娠
・高K血症
・両側腎動脈狭窄
*血管神経性浮腫
*LDLアフェレーシス
*はACE阻害薬のみ.

慎重投与

・急性腎障害
・(片側の)腎動脈狭窄

注意すべき副作用

・腎機能の増悪
*乾性咳嗽
*はACE阻害薬のみ.

ここではCa拮抗薬の強さが出ます.
ACE阻害薬はおいといてARBも特に副作用や禁忌が多いわけではないのですが,Ca拮抗薬はとりわけ少ないです.
それも,「血管を拡げる」というシンプルな薬効のおかげですが,その反面で臓器保護などのエビデンスは乏しいです.

Drぷー
禁忌を踏まないことは,降圧薬に限らず薬剤を選択する時は常に大切です.
これは,患者さんはもちろん,医療従事者の皆さんを守るためでもあります.

➁併存疾患はないか

慢性腎臓病糖尿病心筋梗塞の既往や心肥大を含む)慢性心不全脳卒中のいずれかを併存している場合は,ACE阻害薬/ARB優先です.
これは,上述のとおりACE阻害薬/ARBが臓器保護薬だからです.

誤嚥性肺炎の既往がある方は,特にACE阻害薬の使用が推奨されます.
これは,咳嗽反射に必要な物質サブスタンスPの分解を,ACE阻害薬が抑制することで,誤嚥性肺炎を予防する効果があるとされているからです.

Drぷー
併存疾患が明確になくとも,高齢化時代では,こういった疾患のリスクは常に隠れ潜んでいます.
故に,「とりあえずACE阻害薬/ARB」というスタンスでも,あながち悪くないかな,と思います.

➂急ぐか急がないか

禁忌や副作用の懸念さえなければ,ACE阻害薬/ARBが盤石に思えますが,もう一つの弱点として,薬効の安定に時間がかかるという点があります.

高血圧緊急症(高血圧によって二次的に他の臓器が障害を受けている状態)など,緊急な降圧が必要な際は,ACE阻害薬/ARBは最適とは言えません

その点,Ca拮抗薬は,降圧効果の発現・安定が早く,さらに言えば点滴製剤もあるので,高血圧緊急症の際には大変活躍します.

ココがポイント

副作用が少なく薬効が明確・迅速なため,急性期に使いやすいCa拮抗薬
慢性期臓器保護エビデンスがあり,併存疾患がある場合に優先すべきACE阻害薬/ARB


 

まとめ

今回は高血圧治療薬の第一選択について,Ca拮抗薬とACE阻害薬/ARBの話を中心に解説しました.

これで1剤目の降圧薬はほぼ決められると思います.

Drぷー
臓器保護エビデンスという,強力なバックアップがあるため,「とりあえずACE阻害薬/ARB」というスタンスでも,大けがすることは少ないです.
但し,とにかく禁忌にだけは注意してください.

また,高血圧緊急症のように,迅速な降圧が求められる時は,まずCa拮抗薬を始めてから,あとでゆっくり臓器保護のことを考えましょう

降圧薬の使い分けが身につく本【おすすめ2選+1】

※2020/9/11加筆修正 高血圧はごくごくありふれた病気である割に,降圧薬治療をまとめた本はそんなに多くないので,どの本で勉強したらいいか迷いませんか? 高血圧治療は,ただ血圧を下げればいいわけで ...

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この記事のために引用した文献・webページなど

降圧薬の考え方、使い方 浦 信行 (著)
よくある副作用症例に学ぶ 降圧薬の使い方 後藤 敏和 (著), 鈴木 恵綾 (著)
高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会
循環器治療薬ファイル 薬物治療のセンスを身につける 第3版 村川裕二 (著)
・Comprehensive comparative effectiveness and safety of first-line antihypertensive drug classes: a systematic, multinational, large-scale analysis. Lancet. 2019 Oct 24.

おまけ:残された疑問

「本当にサイアザイド系利尿薬は最初に選択しなくていいの?」

第一選択薬にも関わらず,副作用の多さなどから敬遠されがちなサイアザイド系利尿薬も,エビデンスはしっかりあります

2019年のLancetに掲載された論文では,併存疾患のない高血圧の第一選択としてのサイアザイド系利尿薬は,他剤(Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARB)と比較して心血管系イベント(急性心筋梗塞,脳梗塞,心不全)が優位に少なかったという結論.
(Comprehensive comparative effectiveness and safety of first-line antihypertensive drug classes: a systematic, multinational, large-scale analysis. Lancet. 2019 Oct 24.)

最近でもこのような報告があり,高血圧治療薬としては軽視できませんが,単剤での降圧作用の切れ味が悪いのが大きな問題です.

副作用の懸念から,使用量を抑えた少量サイアザイド系利尿薬の有効性は,昔から実証されてきていますが,やはりそれだと降圧が足りないことが多くなります.

Lancetの論文のlimitationでも,ベースラインの血圧に差があったかもしれない,ということが言及されており,基本は(単剤使用ではなく)併用薬剤だと考えています.

「β遮断薬単剤で高血圧を治療している人が見たことあるけど?」

それは間違いなく,何らかの併存疾患があるでしょう.(β遮断薬なら,おそらく心疾患があります.)
“高血圧の治療だけを目的にしていて,Ca拮抗薬とACE阻害薬/ARB以外の薬剤単剤で治療に当たることはであり,あったとしても上述したサイアザイド系利尿薬くらいです.

併存疾患にもっと着目した降圧薬の見方や,降圧薬の2剤目・3剤目の選び方は,以下の記事で解説しています.

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