※2020/9/11加筆修正
高血圧はごくごくありふれた病気である割に,降圧薬治療をまとめた本はそんなに多くないので,どの本で勉強したらいいか迷いませんか?
高血圧治療は,ただ血圧を下げればいいわけではありません.
高血圧治療の主な目的は,心血管トラブルの予防です.
今回は,日々,心血管トラブルの予防治療をし続けている循環器内科の私が,おすすめの降圧薬の本を解説します.
降圧薬の使い分けが身につく,おすすめの本
選考にあたっての最低基準は
- 降圧薬全種類の最低限の特徴を知ることができる
- 読むことで,降圧薬の選択において確実に生きてくる内容
ある種類の降圧薬の話だけでは,"降圧薬の使い分けが身につく"というコンセプトに見合いませんからね.
また,薬剤の情報をつらつら綴っているだけの本もありますが,それを臨床にアウトプットできるかは本人次第になってしまいます.
以下におススメする本は,いずれも降圧薬の選択において確実に有用な内容を含みます.
おすすめ➀「よくある副作用症例にに学ぶ 降圧薬の使い方」
総括
豊富な情報量の割に読みやすく,質の高い入門書.
索引・付録を除く200ページ強の内,50ページ弱が高血圧治療の総論(各薬剤への言及は最小限)で,その後130ページ強,各薬剤の話です.
エビデンスによる拡充はやや少なめ.
症例ベースでの説明で読みやすいです.
知識として記憶しやすいような体系化は乏しく,症例ベースの構成も実用的なようで,少し構成が間延びすることもあるので必ずしも頭に入りやすくはないかもしれないです.
しかし,ドラッグ間の比較もあり,初学者が読むことによって得られる実用性は高いです.
知識量
各降圧薬に関しての情報がある程度網羅されている.ただ,やや浅い.
実用性
症例ベースやドラッグ間の比較があるので,実用性は高い.
読みやすさ
症例ベースで読みやすいが,構成が不定・変則的な箇所があるのがやや難.
頭への入りやすさ
読みやすいことから頭に入りやすそうだが,知識の体系化が少なく,読み返したり自分なりにまとめりしないと,頭には入らないかもしれない.
信頼性
エビデンスへの言及は多くない.
専門性
降圧薬全体の学習をするための入門書として読みやすいレベルの専門性に留めてある.
特におすすめの人
・とにかく実用性重視.
・読むことで,降圧薬をさばく力を確実に身に着けたい人.
あまりおすすめできない人
・降圧薬に関してエビデンスも含めてしっかり知識武装したい人.
・降圧薬の特徴を体系的に整理したい人.
確かに読みやすくて,研修医やレジデントくらいの学年の人なら,読むことで絶対に力になります.
ただ,知識はあまり体系的にはまとめれられていません.
降圧薬の使い分けを人に説明するための予習としては,少し物足りませんでした(私がブログを書く前に読んだ感想です).
おすすめ➁「降圧薬の考え方、使い方」
総括
読みやすさは➀に軍配が上がりますが,こちらの売りは降圧薬に関する知識の網羅性とエビデンスの引用による信頼性.
また,知識量の割には,構成がしっかりしているので比較的読みやすいです.
索引除く230ページ強の内,最初の50ページ強が高血圧治療の総論.(各薬剤への言及は最小限.)
続く80ページ弱は,みっちり各薬剤の特徴とエビデンス.最後の100ページは前章を基盤に,合併症の種類別に薬剤選択の仕方を解説しており,理論的に降圧薬カテゴリーの選択をするためのスキルが身に付きます.
但し,具体的症例の引用はなく,また,薬剤クラス(例:Ca拮抗薬,ARB)間のの比較はありますが,個々のドラッグ(例:テルミサルタン,オルメサルタン)間の比較はありません.
知識量
各降圧薬に関してかなりの情報量が網羅されている.
実用性
読むことで降圧薬の見識は確実に深まるが,すぐに臨床へ実用化できるかは難しいです.
読みやすさ
内容は少し難しいが,項目分割が明確で,構成がしっかりしている.読みたい部分から読むのもあり.
頭への入りやすさ
特別頭に入りやすいわけでもないが,構成のおかげで情報量の割には理解しやすい印象.
信頼性
推奨の根拠となったトライアルの紹介など多数あり.
専門性
降圧薬に関して細かく説明してくれている.専門医の知識拡充の用途でも使える.
特におすすめの人
・降圧薬を使い分ける上でのエビデンスまで知りたい人.
・他人にレクチャーするような立場の人.
・降圧薬の選択択に根拠や自信を持ちたい人.
あまりおすすめできない人
・エビデンスとかは後でいいから,とにかく実用的に近々の臨床をしのぎたい人.
・読みやすい書籍でサクッと勉強したい人.
おまけ「類似薬の使い分け」
総括
索引除く270ページ中,降圧薬の話は20ページ未満ですが,それぞれの降圧薬の特徴を浅く確認しつつ,高血圧治療ガイドラインに則った薬剤選択を教えてくれる..
ページ数を考えれば,おそろしくコンパクトにまとまっている.
降圧薬治療の第一歩としてはとても読みやすい「触れる」程度の内容.
各降圧薬の長所短所への言及は少なく,知識武装にはあまりならない.
“Ca拮抗薬かACE阻害薬/ARBか”といったカテゴリー選択はなんとなくできるようになるが,ドラッグ間の比較への言及はほとんどなし.
(降圧薬以外の)他の項と合わせたら良い本に思うが,降圧薬だけを集中して勉強したいのなら,他の2冊の方が当然いい.
知識量
各降圧薬の特徴や使い分けを広く浅い知識で説明しているが,降圧薬自体より,高血圧治療ガイドラインへの見識の方が深まる.
実用性
読んで理解することでガイドラインに準じた降圧薬カテゴリー選択は上達する.
読みやすさ
知識の深堀がない点で読みやすいが,図表用いたまとめはあまりなく,文字が多い点はやや読みづらい.
頭への入りやすさ
知識量は多くなく内容は頭に入れやすいが,まとめや体系化がない点は少しマイナス.
信頼性
トライアルの紹介は少ないが,基本はガイドラインの話なので,それなり.
専門性
いい意味でも悪い意味でも降圧薬の本質へは言及せず特徴はザックリ.専門性は低い.
特におすすめの人
・降圧薬に限らず類似薬の使い分けに興味があり,降圧薬に関してはとりあえず広く浅くの知識でいい人.
あまりおすすめできない人
・降圧薬の選択を理論的にさばけるようになりたい人.
・高血圧治療の経験は少しあって,スキルアップしたい人.
まとめ
- 読みやすくてバランスのいい「よくある副作用症例に学ぶ 降圧薬の使い方 」
- 知識網羅とエビデンス拡充の「降圧薬の考え方、使い方」
色々読んでみましたが,この2冊以上に降圧薬の使い分けをまとめてくれている本は今のところなさそうです.(他にオススメがあればコメント欄で教えてください!)
1冊読んだだけで,今後の長い医者人生における降圧薬選択を確立できる,と考えたら安くないですかね?
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