※2020/9/11加筆修正
≫本記事は前回記事の続きです.
前回記事で,降圧薬の最適な一財目を選択する方法は解説しました.
しかし,降圧療法はしばしば単剤治療では目標を達成できず,多剤併用となります.
今回は,心血管疾患予防のための高血圧治療を毎日のように行っている私が,“最適な1剤目”でも血圧がコントロールがつかない時の次の一手を解説します.
1剤目の選択肢にはなりづらいサイアゾイド系利尿薬やβ遮断薬の特徴などにも言及していきますので,興味のある方は最後まで読んでみてください.
単剤で血圧が下がらない時
臓器保護作用など,降圧作用と独立した薬効も期待される降圧薬ですが,血圧を正常化することによる心血管イベント抑制効果は明らかです.
降圧薬なので,当然血圧を下げなければ意味がありません.
1剤目の増量ではダメか?
1剤目を増量する,という対応は,ダメとまでは言いませんが,あまり好ましくありません.
1剤目で効果が弱かった薬剤は,増量しても効きにくい可能性があるからです.
また一方で,副作用のリスクだけを高めてしまうこともあります.
機序の違う薬剤を併用することは,相乗的に効果を高めることもあるので,降圧が不十分な際は増量より併用を優先する,というのが基本的なスタンスです.(高齢者の方などはアドヒアランスの問題はありますが...)
基本はCa拮抗薬とACE阻害薬/ARBの併用
確実で迅速な降圧効果が期待できるCa拮抗薬は併用薬としても優秀です.
また,前回記事から繰り返していますが,ACE阻害薬/ARBは臓器保護効果があるので,併用薬としても優先度は高くなります.
禁忌さえなければ,結局のところCa拮抗薬+ACE阻害薬/ARBの“二大巨頭タッグ”に行き着くことも多いです.
Ca拮抗薬とARBなら合剤も多く,服薬アドヒアランス的にもgoodです.
利尿剤とβ遮断薬の出番なんてあるの?
残された“ABCD”である,利尿剤(特にサイアザイド系利尿薬)とβ遮断薬の出番はちゃんとあります.
もちろん,Ca拮抗薬とACE阻害薬/ARBを併用しても血圧が下がらない時の3剤目や,Ca拮抗薬かACE阻害薬/ARBのいずれかが使用しづらい時の2剤目などでも使用できますし,それ以外にも利尿剤とβ遮断薬の強みを生かせ津場面もあります.
- 降圧不十分時は1剤目の増量より併用を優先する
- Ca拮抗薬とACE阻害薬/ARBは併用薬としても優秀
降圧薬の2面性
私は,Ca拮抗薬が最も"ピュアな"降圧薬に近いと考えています.
ACE阻害薬/ARBに臓器保護薬としての側面があるように,その他の降圧薬には全てもう1つの側面があります.
これら降圧薬の2面性の理解が,降圧薬選択の次のステップです.
サイアザイド系利尿薬
サイアザイド系利尿薬は,その名の通り,利尿薬です.
浮腫性疾患(心不全,肝硬変,腎不全)が併存しているときは,優先して考慮しましょう.
サイアザイド系利尿薬は,遠位尿細管のNa+-Cl-共輸送体によるNaの再吸収を抑制するわけですが,要は“塩出し薬”です.
Naは水を引き連れて尿に出ていくので,この際に利尿作用も生まれますが,ループ利尿薬と比べればその利尿作用は軽微になります.
このような特徴から,食塩感受性高血圧に有効です.
使用上の注意点
基本的に単剤での降圧効果は弱く,用量を増やしても降圧効果の割に副作用が強くなりやすいので,少量使用を基本として増量は慎重に検討すべきです.
副作用は,低K血症,高尿酸血症,脂質代謝・糖代謝の悪化などがあります.
また,糸球体内圧の低下からGFRを低下させることがあります.
高血圧+浮腫はいい適応ですが,腎不全による浮腫の場合は腎機能に注意が必要です.(急性腎障害への使用は禁忌.)
GFR<30の症例で浮腫改善が目的なら,ループ利尿薬の方がbetterであり,慣れないうちはサイアザイド系利尿薬の使用はやめておきましょう.
使い方のポイント
サイアザイド系利尿薬は,浮腫んでいる人とか,食塩制限があまり上手くできていなそうな人,に少量併用で使用する.
GFR<30であれば使用は避け,使用開始後は,低K血症,高尿酸血症,脂質代謝・糖代謝の悪化に注意する.
腎機能や体格に余裕があれば2mgくらいには増やしてもいいですが,それ以上の増量は無理をしない方がいいですよ.
β遮断薬
β遮断薬は,降圧薬である以前に心臓の薬です.
逆に,心疾患がない人にβ遮断薬をあえて使用する場面はあまりないです.
いい適応は,慢性心不全,狭心症・心筋梗塞,頻脈性不整脈などですが,これらを見据えてβ遮断薬を使用するのは,非専門の方にはかなり難しいと思うので,心疾患がある時のβ遮断薬開始は循環器科に任せてください.
使用上の注意点
β遮断薬の禁忌は,気管支喘息,徐脈性不整脈,非代償性心不全,代謝性アシドーシス,重症ASOです.(ちなみに,ビソプロロールはβ1選択性が高いので,気管支喘息が禁忌となっていません.)
その他,COPD,冠攣縮性狭心症,糖代謝・脂質代謝の悪化,めまいなどにも注意が必要です
心疾患がない症例にも関わらず降圧薬としてあえて優先すべき時は,他剤を複数併用しても血圧が下がりきらない時,体動時やストレス下で血圧・脈拍が上昇する時,甲状腺クリーゼや急性大動脈解離など特殊な病態の時などです.
あまり機会は多くないかもしれませんが,いざという時のために禁忌だけでも把握しておきましょう.
降圧薬の比較・使い分け -まとめ-
Ca拮抗薬の潔さがわかりますね.とても単純かつ有効な薬です.
ACE阻害薬は,ARBと比較して副作用と禁忌が多く,降圧作用もARBより弱いです.
「じゃあ,使うメリットなくない?」となりますが,ACE阻害薬がARBに勝る点は,➀エビデンスの多さ,➁安価,➂誤嚥性肺炎予防です.
≫ACE阻害薬とARBの比較・使い分けに関してまとめた記事はこちら.
サイアザイド系利尿薬とβ遮断薬に関しては本稿で述べた通りです.
増量の仕方
増量より併用が優先という話はしましたが、さすがに初期投与量の併用だけでは血圧コントロールがつかない時はしばしばあります.
また,高齢化社会では服薬アドヒアランスの問題も大きく,増量で対応する機会も少なくないでしょう.
1番簡単なのはCa拮抗薬の増量です.効果は明確ですし,副作用の心配も少ないです.
次点はARBです.少し薬効の立ち上がりが遅いのがネックですが.
ACE阻害薬で血圧が下がらないときは,ARBに変更するのもいいです.
ACE阻害薬がそもそも降圧効果が弱いので.
サイアザイド系利尿薬は,本稿で述べた通り,増量は最小限にすべきです.効果があまり期待できない一方で,副作用のリスクが高まります.
β遮断薬は,増量による効果は望めますが,徐脈のリスクなどがあるので,慎重にすべきです.
可能なら,入院中に心電図をモニタリングをしながら増量するのが最も安全です.
降圧薬増量のポイント
➀まずはCa拮抗薬を用量上限まで増やす.
➁次は,ACE阻害薬/ARBの増量です.ACE阻害薬→ARBの変更もgoodです.
➂最終手段は.サイアザイド系利尿薬を少しだけ増量するか,β遮断薬を徐脈に気をつけながら慎重に増量,です.
基本はCa拮抗薬とACE阻害薬/ARBの組み合わせでいいと思います.
経験値が溜まってきたら,少量のサイアザイド系利尿薬の併用や,慎重なβ遮断薬さばきができると,より繊細な管理ができるようになりますよ.
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降圧薬の使い分けが身につく本【おすすめ2選+1】
※2020/9/11加筆修正 高血圧はごくごくありふれた病気である割に,降圧薬治療をまとめた本はそんなに多くないので,どの本で勉強したらいいか迷いませんか? 高血圧治療は,ただ血圧を下げればいいわけで ...
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この記事のために引用した文献・webページなど
・降圧薬の考え方、使い方 浦 信行 (著)
・よくある副作用症例に学ぶ 降圧薬の使い方 後藤 敏和 (著), 鈴木 恵綾 (著)
・高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会
・循環器治療薬ファイル 薬物治療のセンスを身につける 第3版 村川裕二 (著)
・Comprehensive comparative effectiveness and safety of first-line antihypertensive drug classes: a systematic, multinational, large-scale analysis. Lancet. 2019 Oct 24.