高血圧

ACE阻害薬とARBの比較・使い分け【ARBは“咳の出ないACE阻害薬”ではない】

更新日:

※2020/8/25加筆修正

高血圧治療ガイドラインでも同じカラムに分類されるACE阻害薬ARB

これらの違いを知っていますか?
≫そもそもどういう時にACE阻害薬/ARBって有効なんだっけ?

「空咳が嫌だから,とりあえずARB」にしていませんか?

心血管疾患予防の観点から高血圧治療を毎日のように行っている私は,ACE阻害薬とARBの違いについて平均的な内科医より詳しいという自負があります.

今回は,そんな私が,ACE阻害薬とARBの作用機序とエビデンスの違いを分かりやすく解説します.

後半では,ACE阻害薬,ARBそれぞれに関して,各薬剤間の使い分けも説明し,個人的にオススメの薬剤選択の仕方も公開します.
(「作用機序の話とかはいいから...」という人は,目次を使って飛ばして読んでください.)

作用の違い

結論から

ACE阻害薬RA系⇓+カリクレイン-キニン系⇑
ARBRA系⇓⇓

ではいきましょう.

作用機序

良く説明に用いられる図がこちら.
ACE阻害薬 ARB 作用機序 ぷーオリジナル

Drぷー
この図が頭に入りにくくて,みんな理解することを諦めます.

わかりやすく解説します.

違いを薬理作用で表現

  • ARBAT1受容体を直接ブロック
  • ACE阻害薬ACEという変換酵素を阻害

これだけで全然違う薬ということはわかりますね.

Drぷー
“ARBは咳が出ないACE阻害薬”とか,無理がありますよね.

違いを最終的な作用で表現

  • ARBレニン-アンジオテンシン系(RA系)抑制
  • ACE阻害薬 RA系抑制 カリクレイン-キニン系促進

ACE阻害薬の作用“ARBの作用+α”という考え方.
これが核心に近いです
ACE阻害薬 RA系 カリクレインーキニン系 ぷーオリジナル
カリクレインーキニン系は,RA系とは反対の降圧系で,ブラジキニンなどを産生するカスケードです.
※ブラジキニンとアンジオテンシンⅡは,多くの拮抗する作用を持ちます.(例:血管拡張と血管収縮)

ACEにはブラジキニンを不活化する作用もあり,ACE阻害薬の使用でブラジキニンが蓄積します.(カリクレイン-キニン系の促進)

このブラジキニンが,ARBにないACE阻害薬特有のエビデンス(後述)を生んでいます.

一方で,ブラジキニンは,空咳血管性浮腫の主な原因物質であり,LDLアフェレーシスで血圧が下がる副作用も,ブラジキニンが原因です.

つまり,ACE阻害薬特有の副作用は,カリクレインーキニン系を促進させることが原因です.

Drぷー
「うわー要らねぇ...」
と思うかもしれませんが,
このカリクレインーキニン系の促進がなければ,後述するACE阻害薬の優位なエビデンスは生まれないので,そのつもりで読み進めていってください.

RA系をどの高さでブロックしているか

RA系において,ARBはACE阻害薬より下流を阻害しています.

具体的には,AT1受容体を直接ブロックするわけですが,長期間AT1受容体をブロックすることで,ポジティブフィードバックが起こり,より上流にあるアンジオテンシンⅡは増加します.(ACE阻害薬では起きません.)

アンジオテンシンⅡが増加すると,特に(ブロックされていない)AT2受容体の刺激が促進されますが,AT2受容体の作用AT1受容体の作用と拮抗するんです.
ARB ポジティブフィードバック ぷーオリジナル
結果的に,ARB(ACE阻害薬に比して)AT1抑制作用が強くなります

Drぷー
AT2受容体は,アンジオテンシンⅡが体内に増えすぎた時のブレーキの役割を果たしていたのでしょう.

アクセルから足を離すだけのACE阻害薬と違い,ARBはしっかりブレーキを踏んでいるイメージです.

また,余談ですが,アンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換する酵素は,ACE以外にもキマーゼなどが存在し,そもそものAT1抑制作用でもACE阻害薬は不完全なんです.

ここがポイント


ACE阻害薬の作用“ARBの作用+α”
ARBは,AT1抑制作用≒RA系の抑制作用が強い

ACE阻害薬RA系⇓+カリクレイン-キニン系⇑
ARBRA系⇓⇓


ブラジキニンの作用

➀血管拡張作用:NO産生亢進などによる.
➁抗血小板作用:増加したNOやPGI2が炎症細胞の接着や血小板の接着を抑制する.また,tPAの放出も促進する.
➂内皮保護作用:血管内皮のアポトーシスを抑制.(⇔アンジオテンシンⅡは促進する)
⓸その他:冠動脈側副血行路の維持や確立にも重要とされている.

臨床での違い


結論から

ACE阻害薬こそRAS阻害薬の第一選択薬
ARBが勝る点は,降圧効果と副作用の少なさによる忍容性

ではいきましょう.

エビデンス

腎保護作用心不全に関する有効性に関して,ARBACE阻害薬に非劣性です.

しかし,最大の違いは,ARBには冠動脈疾患に関する有効性のエビデンスがないんです.(小規模なトライアルの結果は除きます.)

BPLTTC(Blood Pressure Lowering Treatment Trialists' Collaboration)は2007年に発表されたACE阻害薬とARBのRCT28試験15万症例を対象にしたメタ解析.脳卒中,冠動脈イベント,心不全をエンドポイントとしたが,降圧差が0mmHgでもACE阻害薬はARBより9%有意な冠動脈イベントが少なかった

これにより,ACE阻害薬は,降圧と独立した冠動脈イベント抑制効果をもちARBはもたない,という結論になっています.

ガイドラインの推奨

このACE阻害薬に特有のエビデンスから,日本循環器学会ガイドラインでは,急性心筋梗塞後の全例で発症24時間以内のACE阻害薬の開始が推奨されています.
特に,前壁梗塞例EF≦40%例心不全合併例心筋梗塞既往例頻拍例で有効性が高いとされます.

米国の心臓病学会AHA/ACCの推奨としては,(糖尿病などを含む)動脈硬化疾患患者のRA系阻害薬の第一選択ACE阻害薬であるべき,とされており,ARBは,➀ACE阻害薬に忍容性の無い心不全.➁EF40%以下の心筋梗塞後,の2パターンの推奨のみです.

Drぷー
ちなみに,優劣の示されていない腎不全や心不全に関するガイドラインでも,ACE阻害薬は安価であることから,ARBより優先した使用が勧められ,ARBの適応はあくまで“ACE阻害薬に忍容性がない場合”となっています.

ACE阻害薬無双です.

降圧効果

降圧効果は,ACE阻害薬よりARBで優れています

前述したように,AT1受容体の抑制作用がARBでより確実である影響もあると思いますが,本邦のACE阻害薬の用量が少ないせい,という意見もあります.

Drぷー
用量の違いなども考えると,なかなか公平な比較が難しい項目ですが,実際,常用量での薬効の感触は,ACE阻害薬は(一部の)ARBより明らかに降圧作用の切れ味が悪いのかな,という印象です.

その他の違い

ACE阻害薬は腎排泄(が多く)ARBは肝胆汁排泄(が多い)
ACE阻害薬ARBより安価(概ねARBの半額).
ACE阻害薬には空咳の副作用がある.

Drぷー
日本では,欧米に比してARBの使用頻度が多いです.

その理由として,
日本を含めたアジア人は,欧米に比して空咳の頻度が多い
➁保険制度が恵まれており,薬価の違い薬剤の選択にあまり反映しない
という2点が挙げられます.


ここがポイント


急性心筋梗塞などの虚血性心疾患に関して,国内外のガイドラインACE阻害薬の使用が推奨されている.

ARBの使用は,基本的に(空咳などで)ACE阻害薬に忍容性がない時に限られる

(安価であることも後押しして)ACE阻害薬こそRAS阻害薬の第一選択と考える.

ARBが勝る点は,降圧効果と副作用の少なさによる忍容性

各薬剤の使い分け

以下は,多分に私見を含むので,あくまで参考にしてください.

ACE阻害薬の使い分け

まず結論は

使い慣れたものを使用する.

ほとんど差がないんです.

一応以下に持論をまとめますが,参考レベルです.

あえて使わない

・カプトプリル(作用時間が短いため,負荷試験で使用される.)
・アラセプリル
いずれもSH基があり,空咳や発疹,骨髄抑制などの原因になるとされた.

使い慣れたものがなければ,基本は次の3つから選びます.

エビデンスが割としっかりある

ペリンドプリル
心筋梗塞後のエビデンスが多い.作用時間が長い(1日1回内服ok).欧米と同等量が使用可能
エナラプリル
心不全の適応症があり,広く使われる.(他はリシノプリルだけ)
イミダプリル
空咳が比較的少ない欧米と同等量が使用可能

「上の3つとも採用がない」?そんなことありえる??
と思いつつも,以下にその他の特徴を示します.

腎臓が悪い場合

ベナゼプリル
テモカプリル
トランドラプリル
比較的に腎排泄の割合が少ないため,安全かもしれない.

認知症の場合

ペリンドプリル
リシノプリル
トランドラプリル
脳移行性があり,認知機能の保護に有効な可能性がある.

脂溶性が高い

トランドラプリル
キナプリル
デラプリル
脂溶性が高いことによる有用性は不明.


いずれも大した特徴ではないですが,参考に選んでみてください.

個人的な使い方

・使い慣れている:エナラプリル
・アドヒアランス的に1日1回処方がいい:ペリンドプリル
・空咳が気になる:イミダプリルを試してみる

それ以外はほぼ自分で処方したことがありません.
大抵の専門医も,その程度の処方経験かと思います.


Drぷー
このACE阻害薬の使用傾向だけは,本当にお好みです.

ARBの使い分け

結論として,この2点だけ.

  • 尿酸排泄促進の有無
  • 降圧効果の強弱

薬理作用(半減期や蛋白結合率や排泄経路など)の違いは,根本的な違いを生まないので,覚えなくていいです.

尿酸排泄の促進作用

ロサルタンイルベサルタンに特有の作用として,尿酸トランスポーターであるURAT1を阻害し,腎からの尿酸排泄を促進する作用があります.

Drぷー
尿酸が高くて得することはないので,私は選べるならこの2剤のいずれかを選んでいます.

尿酸値を上昇させる利尿薬β遮断薬を,循環器医として私が頻用していることも関与しています.

ロサルタンイルベサルタン他の降圧薬との併用もいい感じということです.

降圧効果の強弱

色々な意見がありますが,ある程度コンセンサスが得られそうなのは,➀ロサルタンの降圧効果が弱いこと➁オルメサルタンとアジルサルタンの降圧効果が強いこと,くらいではないでしょうか.
ARB 使い分け ぷーオリジナル

Drぷー
細かい並びは私見含むのであくまで参考までに.
テルミサルタンの降圧効果は“弱い”という人が多いと思うんですが,“強い”という意見もあるので,広めにしました.(私は弱めだと思っています.)

テルミサルタン強い説・弱い説

ARBの中でテルミサルタンのみ完全肝代謝のため,血中濃度が非線形となります.
平たく言えば,「ある用量を境に(増量比以上に)急激に血中濃度が上昇する」ということです.
これが,テルミサルタンの降圧効果が弱いという人,強いという人の差なのかもしれないです.

その他の特記すべき特徴

・バルサルタン:データ改ざん事件があったので,嫌う臨床家もいる.少し薬価が安い.
・テルミサルタン:完全肝代謝なので腎機能障害例に好んで使用される.半減期が24時間と他に比して圧倒的に長い.
※半減期=薬効時間とも限らないので,あくまでも参考情報.

個人的な使い方

・血圧を下げたくない(臓器保護目的):ロサルタン
・こだわりがない:イルベサルタン
・血圧を下げたい:アジルサルタン(オルメサルタン)
・血圧変動に困っている:テルミサルタンを試してみる

Drぷー
よくある「腎不全ならテルミサルタン」という選択を,私はしていません.

「腎不全症例では(他のARBに比して)テルミサルタンが安全」というエビデンスはないですし,添付文書上で他のARBも腎機能用量調節指示は特にないからです.(あくまで個人的な意見です.)


余談:PPARγ活性化作用という幻影

インスリン抵抗性改善薬チアゾリジン(アクトス®)の薬理作用でもあるPPARγ活性化作用.この作用が一部のARBにも認められ,糖代謝や脂質代謝を改善させることを期待して,昔はそれらを優先して選択していました.(私が研修医の時はそうでした.)
しかし,ONTARGET試験にて,ARBがチアゾリジンのような作用を出すには,最大投与量の10倍以上の用量が必要であるとがわかり,現実的には無視していい特徴となりました.

余談:ACE阻害薬とARBの併用

“体に良いもの”ד体に良いもの”で何かさらに良いことが起きないか,期待されていたこともありましたが,ONTARGET試験にて,「有用性がない一方で,低血圧,腎機能悪化,高Kなどの有害事象が増えた」と,残念過ぎる結果だったので,推奨されない組み合わせになりました.

まとめ

ACE阻害薬とARBの違いがわかりましたか?

大事なことは,細かい機序を知ることではなく,2種類の薬剤カテゴリーの明確な差別化だと思います.

今回の記事内容を明日からの臨床に生かして頂けたら幸いです,

Drぷー
RA系の話やACE阻害薬のユニークな作用は,細かいことを言い始めると,まだまだたくさんあります.

そちらに興味がある方は, 「実はすごい!ACE阻害薬 エキスパートからのアドバイス50」はおススメなので読んでみてください.

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